仕事を失った絶望期「本人の話を聞いた」 対戦相手・比嘉大吾に支えられた堤聖也の闘争心
ボクシングのWBA世界バンタム級(53.5キロ以下)タイトルマッチ12回戦が24日、東京・有明アリーナで行われ、王者・堤聖也(角海老宝石)と挑戦者の同級4位・比嘉大吾(志成)が激突した。2020年に一度は引き分けた、高校時代からの親友同士の決着マッチ。同学年の2人が歩んだそれぞれの軌跡を「比嘉編」「堤編」「完結編」の3回にわたってお送りする。第2回は「堤編」

堤聖也VS比嘉大吾・親友マッチの軌跡「堤編」
ボクシングのWBA世界バンタム級(53.5キロ以下)タイトルマッチ12回戦が24日、東京・有明アリーナで行われ、王者・堤聖也(角海老宝石)と挑戦者の同級4位・比嘉大吾(志成)が激突した。2020年に一度は引き分けた、高校時代からの親友同士の決着マッチ。同学年の2人が歩んだそれぞれの軌跡を「比嘉編」「堤編」「完結編」の3回にわたってお送りする。第2回は「堤編」
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堤は昨年10月に悲願の世界王座奪取。比嘉と食事に出かけ、引退を告げられた。初防衛戦までの4か月。変わらず闘争心を持ち続けられたのは、体重超過による資格停止期間中の比嘉の話が少なからず影響していた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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昼メシの席。目の前に座るダチに投げかけた。
「どうすんの?」
「辞める。ボクシングはもういいよ」
昨年10月半ば。堤は自分と対戦する可能性を踏まえて聞いたが、比嘉の決意は固かった。1週間前に井上拓真との12ラウンドの激闘で世界王座を奪ったばかり。「お前、スタミナ凄いなぁ」。褒めてくれる笑顔は他人事。互いの試合の話から他愛のない世間話まで。「また今度ゆっくりな」。もう拳を交えることはない。そう思っていた。
アマチュアだった高校時代は自分の2戦2勝。先にプロ入りした比嘉に猛スピードで追い抜かれた。18歳で沖縄から上京し、21歳で世界王者に。デビューから15戦連続KO勝ちの日本タイ記録を打ち立てた。「刺激をもらえる存在だった」。平成国際大に進み、アマで戦っていた堤には輝いて見えた。
大学卒業とともにプロデビュー。2020年10月、7戦目で比嘉と引き分けた。追いつき、世界王者になって追い越した昨年。挨拶回りで地元・熊本に帰省中、ジムから連絡を受けた。「比嘉がやっぱり動き始めたらしい」。引退を翻したのは世界戦だったから。その相手が自分だった。
「なんだよ」
重かったはずの決断が覆され、口を尖らせた。そんな折、比嘉本人から真っすぐな報告をもらった。
「あなたが大好きだから。筋を通します」
腹は決まった。「変な相手じゃなくて良かった。しっかり気を張って準備できる」。最大の武器は心の強さ。相手が弱ければ、精神をつくり上げるのが難しい。復帰を両手で歓迎し、走り出した。
「尊敬している友人。シンプルに友だちと世界タイトルマッチで戦うってなかなかない。それを純粋に楽しみたい」