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“超速”第2次エディージャパン1年目の検証 「世界トップ4と差が…」4勝7敗、4つの苦戦の理由と強化戦略の考察

日本が世界の上位チームと渡り合うために必要となるゲームメーカーの存在【写真:ロイター】
日本が世界の上位チームと渡り合うために必要となるゲームメーカーの存在【写真:ロイター】

日本が世界の上位チームと渡り合うために必要なゲームメーカーの存在

 そして、日本代表が上位チームと渡り合えるようになるには、やはりゲームメーカーの存在は重要だろう。司令塔に位置付けられるSOについては、2023年W杯の主力だった松田力也(トヨタヴェルブリッツ)が前半戦で代表を離れ、今季主戦SOとしてプレーしてきた李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)も9月に負傷離脱、代わりに10番を背負った立川理道(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)もフランス戦の怪我で帰国の途に就き、最後はCTBニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)に10番を託して急場を凌いだ。

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 シーズンの仕上げとなる段階で10番を固定できなかったことに関して、帰国したエディーは「現在、李が一番の10番で、その下の選手がいない状態です。今後は大学生も見ていきたい。来季のシーズン終了までには10番として有望な選手3人を揃えたい」と語っているが、戦況を見渡し、ゲームをオーガナイズ出来る統制力を持つSOの人材不足は明らかだ。李が代表戦で経験値を積んでいたことは認めるとしても、失点に繋がるような不用意なキックを選択するなど、テストラグビーの司令塔としてはまだまだ乗り越えなければならない課題があるのも現実だ。現状の司令塔不足、経験値の低さを考えれば、個人的には2019年大会で活躍した田村優(横浜キヤノンイーグルス)のような経験値の高いSOが求められるが、世代交代を推進する指揮官は若手起用を重視してきた。

 エディーが進める若手への投資という面でも、一貫性に疑問が浮かぶような選考もみえた。エディーは今年2月の代表トレーニングスコッド合宿では伊藤耕太郎(当時明大在籍中、現リコーブラックラムズ東京)を選んでいたが、10月には伊藤ではなく同じBR東京の中楠一期を呼び、その後11月に立川の代役として再び伊藤を招集している。選手自身も困惑するようなセレクションには、チーム首脳陣がいまだに選手選考に苦悩していることも感じさせたが、日本の司令塔の枯渇ぶりをよく示してもいる。大半の国内チームが積極的に外国人SOを起用することも影響して、国内リーグで日本人司令塔はプレー機会を減らしている。もちろん、今後日本代表資格を得るだろうアイザック・ルーカス(BR東京)、W杯直前の認定になる見通しのジェームス・グレイソン(三菱重工相模原ダイナボアーズ)らの海外勢の招集も検討材料ではあるが、田村同様に、若手、日本選手を重用したい指揮官がどんな判断をしてくかも注目される。

 このようなSOの人選は、日本代表のセレクションも含めた強化の縮図のようにも受け止めることが出来る。先に挙げたBR東京の若手SO2人は、おそらく遠征の中で、まだテストマッチで司令塔を担うには時間、実力不足という評価だったのだろう。実戦で起用できない選手を遠征に呼ぶべきなのかという疑問も浮かぶだろうが、個人的な意見とお断りしておくが、伊藤に関しては昨秋にW杯でも実戦投入がなくても“第三の10番”として選ぶ価値がある才能の持ち主だと考えていた。2人の選手が未だに“投資レベル“だったことは議論の余地はあるが、エディーの唱える育成の重要性を踏まえれば、実戦で起用しないメンバーが遠征に帯同してもいいはずだ。

 その一方で、テストマッチで経験者から若手までを幅広く起用していくことには難しい一面もある。一言で表現すれば、やはり「時間の問題」があるからだ。エディーは総括ブリーフィングでも「経験はスーパーマーケットでパッと買えるものではありません。ここで多大な投資をする時期だと思っています。今は未来に対して投資をしている段階です」と若いメンバーの経験値を上げていくこと、その投資の重要さを力説している。だが、多くの選手がテストマッチで実戦経験を積み上げる時間は限られている。今回のヨーロッパ遠征で日本代表の選手たちに与えられたプレー時間は3試合、240分に過ぎない。その時間を個々の選手が分け合ったわけだが、同じパイをより多くの選手が分け合えば、当然個々の取り分は少なくなる。

 限られたパイをより多くの選手に分けるための改善策として真剣に検討するべきことは、これまでのコラムの繰り返しにはなるが「セカンドチーム」の充実だろう。SOで例えれば、遠征では立川、松永とCTBが本職のマクカランがパイを分け合い、中楠、伊藤は実戦という分け前にはありつけなかった。このような状況はSO以外のポジションでも起きているのだが、より多くの選手が経験値を上げていくためには、テストマッチという最上級のパイではなくても、日本代表に準じるチーム、いわゆるセカンドチームを編成して新たなパイを創り出すべきだろう。

 新たに1つパイを作ること、つまり正代表と同時にセカンドチームを創ることで試合数=プレータイムを増やし、世代交代の最中に置かれる若い選手の経験値を上積みしていくことが出来る。代表チームだけで選手を成長させていくのが従来の強化だとすれば、すこし裏ワザを導入しなければ、上位国、強化を加速するチームに追い付き、対抗してゆくのは容易ではないだろう。
 
 すでに強豪国の多くがテストマッチ以外のパイを作り始めている。詳細は過去のコラムを参照していただきたいが、例えば今秋のニュージーランドが正代表と同時進行で「ニュージーランドXV」を編成してヨーロッパ遠征をしているように、日本よりも上位、同等クラスの国が代表メンバー以外の選手でチームを作り強化に取り組んでいる。2027年やその先にリターンを得るために、投資をテコ入れしているのだ。そこを日本は、エディーが単一のチーム(日本代表)で取り組んでいるのが実情だ。総括会見でセカンドチームについて聞くと、エディー、同席した永友洋司GMはこんな回答をしている。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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