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“超速”第2次エディージャパン1年目の検証 「世界トップ4と差が…」4勝7敗、4つの苦戦の理由と強化戦略の考察

選手層という貯金を使い果たしてしまった日本、踏み出すべきセカンドチームの強化

「現在、世界ではどの国でも国内リーグと国際レベルでは明らかに大きなギャップが起きています。セカンドチームを創り、そのギャップを埋めることの重要さは分っています。日本でも2015年の段階では現状よりは多くの選手がスーパーラグビーでプレーしていたし、2019年まではサンウルブズ(日本のスーパーラグビー参戦チーム、2020年大会で離脱)があった。こういうギャップは2019年あたりから起きていたのですが、日本ラグビー協会も永友GMもこのギャップを認識していますし、埋めるための作業はプッシュしています。日本ラグビーのレベルを上げることが急務なのは理解しているのです」(エディー)

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「エディーさんが就任してから、協会としても話をしています。U19、U20、U23というカテゴリーをしっかり強化していくことにはすでに着手しています。海外でも、数年前まで互角に戦っていたイタリア、アルゼンチンが世界のトップ4と互角に戦っていることも肌で感じています。彼らからヒントを貰わなければならないし、今の学生世代も含めて、もっと海外に目を向けながらの強化が急務かなと思っています。私の責任の一つは、大学、リーグワンとしっかりとコミュニケーションを取ることだと思うので、一緒になって強化を進めていることはお伝えしておきます」(永友)

 両者共に、セカンドチームの充実が重要なことは認識している。だが、具体的なプラン、活動という点では、現状では大きく踏み出せていない。永友GMが語るように、エディーの復帰前にはU20日本代表のHCに大久保直弥が就任している。エディーとはサントリー時代の師弟関係もある人材がユース世代を受け持つことでシニア・ユース間のコミュニケーションは取りやすくなったが、そのU20も過去数シーズンの世界大会を見れば、この世代の強化も苦闘が続いている。日本のメンバーが大学1、2年生なのに対して、強豪国の選手はすでにプロ契約しているか、大会後にはプロチーム入りする選手が揃っているからだ。しかも日本の代表強化という観点では、U20を卒業した20歳から22、23歳あたりまでの選手、つまり正代表入り目前という世代の強化が“ミッシングリンク”となっているのだ。先ほど挙げた各国のセカンドチームは、この世代への投資にしっかりと力を注いでいることも念頭に置く必要がある。

 今季11テストマッチの戦いぶりからは、ピッチ上でのパフォーマンス、そして先に紹介した選手の困惑ぶりを見れば組織としての強化体制、チーム内の相互理解も不十分なままファーストシーズンを終えた厳しい現実はある。エディー自身も「新しくチームがスタートした時は、そういう問題もありがちかも知れない。コーチンググループも新しく集まってきているので問題が生じることもある」と語っている。だが、気を付けなければいけないのは、未だに聞こえるボスの首を変えれば良くなるという風潮だ。

 確かにHCの交代がプラスに働くこともあるだろう。だが、いまの世界の流れと日本の実情を見れば、組織としてどう強化環境を整えていくのかという視点に立ち、現実や課題を考えていく必要があるのは明らかだ。首を切り替えた新たなボスの一声で、組織も「はい、そうですか」と投げ込まれる投資だけで、W杯で決勝トーナメントを争うレベルのチームが飛躍的に強くなる時代は少なくともテストラグビーの世界では終わっている。プロ化が加速度的に進む現在は、代表チームも組織的に強化構造を作り上げる時代が到来している。結果だけで一見変革を唱えているように聞こえる批判の声は、単なる外野の野次に過ぎない。

 かなりネガティブファクターを挙げてはきたが、1シーズン目のチームは、勝つことよりも自分たちのスタイルを作り上げることを重視している面もある。自陣からでもキックでエリアを押し戻すよりも意図的にパスで仕掛けている。イングランドとの最終戦のように、相手防御に応じてショートパントを多用もしているが、ベースはパスアタックだ。勝つゲームを重視すれば、自陣での危機ではキックを使ってエリアを獲ることが定石だが、エディーはリスク覚悟でランプレーを使っている。

 結果的に負けた7試合の平均トライ数は2.14本。アタックが信条のチームながら1試合2トライ程度しか奪えていないのだが、この10年以上に渡り世界のトレンドになっているポッド偏重のゲームをしていないのも興味深い。ポッドでは、4人ないし5人のグループで接点を作りながら攻撃を繰り返すのが基本だが、日本代表は状況に応じて接点での勝負だけではなく、アタックラインでボールを相手防御の薄いスペースへと運ぶシェイプを使おうとしている。このアタックが精度の低さや組織の未熟さでスコアまで至っていないのが2024年のエディージャパンだった。もちろん、1シーズンをかけても未だに未成熟な状態に文句をつけるのもいいだろう。だが、スタイルとしては、リーグワンでもいまだに常識のポッド依存のラグビーより、この挑戦的なスタイルの完成度をどこまで磨き込めるかに期待をしたい。

 2023年W杯までのチャレンジで、日本代表は選手層という貯金を使い果たしてしまった。パンデミックによる活動の停滞も若手の強化育成の妨げになったが、その空白、停滞を強豪各国が創意工夫してなんとか押し進めた時間も、地域格差もあったが日本ラグビーは足踏みを続けてしまった。この“ツケ”がいまも響いている。若手にシフトした2024年の戦いに、大きくのしかかってきているというのが現状だ。

 そのため、エディー就任への経緯の中でも「世代交代」は協会側からの重要な条件になっていた。永友GMは、日本協会の土田雅人会長からも若手強化への指示が下されていると語っている。同会長も、1999年W杯では盟友だった故・平尾誠二監督とコンビを組んでコーチを務めた経験もある。代表強化への情熱も、難しさも理解しているはずだ。だからこそ、実現がいつなのか分からないような題目ではなく、具体的な〇〇年というターゲットを掲げながら、このセカンドチームの強化に踏み出すべきだろう。セカンドチーム以外の代表強化の青写真があるのならまた話は別だが、今回のヨーロッパを舞台とした多くのテストマッチを眺めても、停滞が後退であるのは明らかなのだから。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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