[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

脆すぎる防御…10トライ喫した新体制ワースト「19-64」の完敗 ラグビー日本が世界一3度のNZから得た学び

タッチライン際に脆さ…日本の防御が破綻した原因

 ケインの語った「セカンドマン」に関しては、試合前から情報があった。概ね非公開で行われた練習を視察出来たとある関係者から「あの大きなサイズの選手たちが、2人目、3人目のラックに入るスピードも、意識の高さもすごい」と聞いていた。その段階では、練習がどれほどの強度のものかは不明だったが、日本戦でのセカンドマン、サードマンのタックル、ブレークダウンに入る集散のスピード、意識共に日本を凌駕していた。このエリアでの優位性が、大外の攻防に繋がり、ここにLOパトリック・トゥイプロトゥ、WTBマーク・テレアらの個々のフィジカルの強さ、相手を抜き去るスキルが相まって日本の防御が破綻したことが10トライに繋がった。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 結果的に、ケインの指摘のように日本のタッチライン際の防御の脆さは、NZの連続攻撃のテンポを落せなかった日本の個々の接点での防御が発端にある。この日の多くの失点は、NZの集散に日本がスピードで対応し切れないことで、今季取り組んできたダブルタックルを出来ずに相手に攻撃のテンポを作られて許している。HO坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)も、防御については「ディフェンスのところで少しずつ食い込まれてしまい、ダブルタックルが出来ずにゲインされてしまった」と悔やんだが、この接点での戦いは日本代表の課題であるのと同時に、NZのプレーから学ぶべきものがある。

 戦前は体重140kgというNZの両PRなど、歴代最重量ともいわれた相手FWの重さ、サイズが取り沙汰されたが、個人的に注目していたのは、日本が接点でどこまで戦えるのかだ。自分たちのテンポを作り、相手のテンポを封じることが出来るのかが、この試合のキーポイントと考えていた。集散の速さや運動量を強みとするオールブラックス相手に接点の攻防で対抗出来れば、この先のヨーロッパ遠征で当たる強豪とも渡り合える可能性が見えてくるからだ。NZ戦2日前のメンバー発表会見で、エディーにはこのゲームでの「ブレークダウンの重要さ」について聞いていた。

「もちろん重要です。特にアタック時のブレークダウンはしっかり練習を重ねてきた。なぜならクイックボールが欲しいからです。クイックにボールを出すには、ボールキャリアー、サポート選手それぞれに重要な役割があります。この部分は、とてもいい方向に進んでいると思うし、重要だからこそ今回は姫野和樹を7番で起用している。相手にも100キャップを持つサム・ケインのような素晴らしい選手がいます。だからこそ我々は、キャリアーのサポートでハードワークしていくことが重要なのです」

 指揮官は、日本のアタックを軸に話しているが、ここは攻守が表裏一体となっている部分でもある。重要なのは、エディーが語るように、コンタクトが起きた時に、2人目、3人目のサポート選手が相手より早くブレークダウンに参加して、接点でのバトルで優位に立てるかだったが、26日の対戦では、指揮官が語った「いい方向」は見せられなかった。CTB立川理道主将(S東京ベイ)は、接点での戦いでの「学び」をこう語っている。

「オールブラックスの、ボールを動かす上手さというのは感じました。スタイルは日本とも似ているが、ディフェンスを含めてブレークダウンのところは激しく来たし、ラックからの相手の球出しをスローボールにするところは、日本もやっていかなければいけないのかなと思いました」

 ブレークダウンのエリアで、日本はどうしても優位性を持ちたかった。パワーで劣勢でも、相手を上回る運動量と速さで対抗するのが「超速」のはずだが、ゲームを観る限りは優位性を見せたとは言い難い。両チームの個々の選手を見ても、純然たるスピードや身体能力では絶望的なほどの格差はなかったかもしれない。だが、NZ選手が上回っていたのは、1つのブレークダウンが起こる段階で、すでに次の状況、次の次にどのような展開になるかというゲームを読む能力だった。自分が何をするべきか、どんなポジショニングを取り、どう動けばいいかという判断をしながらプレーすることで、日本を上回るサポートの速さ、厚さを作り出していた。

 一例を挙げれば、前半16分のNZのトライシーンだ。日本陣22mライン付近でNZがボールを奪い取りカウンター攻撃を仕掛けたが、左サイドに大きくボールを動かしSOダミアン・マッケンジーがラストパスを放った時点で、NZは左タッチライン付近に4人の選手がパスを受けられる位置にいたが、日本側は2人しかいなかった。

 日本選手が目の前で起きたプレーや、せいぜいその次に起こるであろうことに対応するのが精一杯だったように見えた一方で、NZの選手たちは常に数手先を読んで適切なポジショニングや、サポートをしていた。このような先を読み、行動する判断力がなければ、日本代表が掲げる「超速」はワンランク上のステージにステップアップ出来ないだろう。まだまだ超速は未成熟だという現実を、NZのパフォーマンスが示していた。ゲームの展開を読み、自分がどう行動するべきかを判断するラグビーIQでは、太平洋を挟んだ南北半球の小さな島の間には、まだまだ深い海溝が横たわっていると痛感させられたゲームでもあった。

 エディー自身が就任時から訴えてきたように、「超速」には身体動作のスピードに止まらず、考え、判断して組織で動くスピードも求められる。だが、26日のゲームでの判断や、これから起こるだろう状況を選手個々、そして組織で判断、共有し、行動する速さで勝っていたのはNZだった。日本はここまでの戦い同様に、断片的な「超速」しか見せられていない。NZのような強豪との溝を埋めていくためにも、前回紹介したエディーの単独インタビューでも触れたように、代表選手層に深みを持たせることやセカンドチームの強化の充実という、代表スコッドおよびその周辺の環境整備が欠かせない時代を迎えつつある。

 結果的に日本代表は、NZにブレークダウンで優位に立たれ、連続攻撃で防御が内側に収斂させられたことで、最後はタッチ際を崩されての失点を繰り返した。後半にはラインアウトからのドライビングモールでそのままトライを奪われるなど、パワーゲームでも力の差を露呈した。主導権を奪いかけた立ち上がりの20分、そして7-21と食い下がった後半の40分をポジティブファクターに挙げる声もあるだろうが、その60時間では挽回出来ないほど、前半20分以降の20分間でスコアされて勝負を決められたという事実は変わらない。この負の時間帯で起きた出来事を修正しなければ、NZに肉迫するフランス(世界ランク4位)、イングランド(同5位)が待ち受ける敵地でのテストも結果が大きく変わることはない。

1 2 3 4

吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
ABEMA Jleague
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集