ラグビー日本、世界最強への挑戦 番狂わせに耽々「NZと対戦するなら今だ」21年前に起きた“事件”再現へ――エディー・ジョーンズ独占インタビュー
選手をどこまで本気で勝とうというマインドに持って行けるか
ここまでの日本の戦いぶりをみると、失敗を繰り返しながらも、徐々に威力を見せ始めるダブルタックルを継続的に続けるワークレート、密集からボールを掻き出すようにして早いパスアウトをする意識、タックラーが相手を倒した時に、その選手の体の上に被さるように倒れることでボールのリリースを遅らせるような細かなスキルなどは、1歩1歩ゲームで見せ始めている。NZという相手に特化した戦術的なプランは、キックオフまでの時間で密かにチームに落とし込まれ、共有されるだろう。あとは、エディーが語ったように、選手をどこまで本気で勝とうというマインドに持って行けるかが勝負になる。
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03年のオーストラリア代表時代の金星ゲームは、エディーの練った奇策が功を奏した一面があった。負ければ終わりのW杯準決勝で指揮官が講じたのは、常勝軍団に心理的なプレッシャーを掛けることだった。大会前の対戦では、キックを織り交ぜた戦いで敗れたオーストラリア代表だったが、この対戦ではキックオフから敢えてパスでボールを動かし攻め続けた。エディーが目論んだのは戦術の変化で意表を突くことではなく、その変化でNZ代表メンバーの中に心理的な不安感を植え付けることだった。自分たちの勝利を疑わないほどの自信に満ちたチームに「いつもと違う」という思いを抱かせることで、自分たちの信じたプレー、ゲームプランを狂わせるという心理戦。この戦略にNZが嵌ったことで、番狂わせというドラマが動き始めた。
インタビューでは、この21年前の考え方は日本代表を率いる今でも変わらないのかと聞くと、迷わずこんな言葉が返ってきた。
「100%その通りです。これはイングランド代表時代も同じです。我々の勝率は40%だったが、2019年のW杯準決勝でオールブラックスを倒し、自分の任期でも通算でイーブンの成績を残した。NZと戦う時は、心理的なところが重要になる。宮崎での10日ほどの練習でも、どれだけ戦う姿勢を促していくことが出来るかは重要です。勿論、スキルとフィットネスは大事ですが、考え方ですね。正しい考え方をどう持って戦うか。(2013年のように)日本代表はファンのようなマインドでプレーするのではなく、チャレンジ精神を持って戦うことが大事です。NZ代表はカウンターアタックもスペースを突くことも大好きなチームです。それをさせないような戦いが出来れば、勝つことは不可能じゃないと思う。今の日本代表は若いチームですが、十分に出来ると思います」
余談だが、2019年の対戦では、NZ伝統の試合前の儀式「ハカ(ウォークライ)」の時に、通常なら横一列に整列するはずのイングランドのメンバーがV字型に並ぶ異例の“対抗”パフォーマンスを見せた。エディー自身は「選手が考えてやったのだろう」と語ったが、誰のアイデアだったとしても、プレーやプレー以外も含めてどんな些細な事でも相手に何か心理的な変化を与えようという指揮官の勝利への意欲がチームにも共有されたのは間違いない。
様々なチーム、選手を取材する中で、メンタル面の強化、ケアというのは合理的な領域と非合理的な領域が混ざり合うものだと感じている。メンタルのエリアだけでみると、何やら錬金術のようなはなしであっても、エディー・ジョーンズというコーチに特徴的なのは、メンタルに加えてGPSが算出するような揺るぎない客観的な数値に基づく体力強化、スキル強化、そしてピッチ上で繰り広げられる戦術とパフォーマンスという経験則が物を言うエリアという3つの“勝つための要素”を統合的に練り上げていく手法だ。メンタルや勝負勘というものに、合理的な分析や評価が混じり合うことで、錬金術師が最先端のスポーツコーチになることもあるのだ。
そんな合理的権謀術数が嵌れば、大きな山も動くかも知れないという思いで26日の対決を待ちたいが、インタビュー後編では、世界のラグビーが変容するW杯ポストシーズンの強化の方向性、トレンド、その潮流の中でエディーが日本代表の強化をどう推進していくのかを聞いた。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)