エディー日本、夏の7試合で顕著だった「186.3」 世代交代に舵切り、日本の弱点ポジションに“隠し球“
顕著だった1試合平均のパス回数「186.3」の意味合い
第2次エディージャパンの戦いぶりを振り返ると、スピードを意識したランに加えて、キックパスのような戦術的なキックがクローズアップされるが、スタッツで興味深いのは「パス回数」だ。数値はゲーム展開や対戦相手の戦術によって変化する相対的なものだ。エディー自身も「重要なことは単なるパス回数ではなくキック、ランなども含めて、どのタイミングでパスを使うかだろう」とプレーの質を重視するが、チームが目指すスタイルの傾向を知る秤にはなる。日本の今季7テストマッチからは顕著な数値が読み取れるのだ。
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日本代表の1試合平均のパス回数は186.3、キック対パスの比率は1対8.5、つまりキック1回に対して8.5回のパスを使っている。そして、敗れたゲームを含めてフィジー戦以外の6試合で相手を上回るパス回数を記録している。今季の最少のパス回数は敗れたジョージア戦の167回。ちなみに160回台だった3試合は全て敗れている。パス160回では勝てないという傾向が如実に表れている。一方で、最多パス回数はカナダ戦の215だ。全てのチームのスタッツを確認したわけではないが、W杯に出場経験を持つレベルで常に180回ほどのパスをしているチームはおそらくないだろう。
参考までに強豪国のスタッツを見ると、NZ代表が常にパスの多いゲームをしているが、フィジー戦と同じ21日に行われオーストラリア戦ではパス218回、キック比1対10.9という高い数値を残し、敗れたオーストラリアもジョー・シュミット新HCが打ち出すボールを展開するスタイルの中でキック比1対9.1というパスゲームを演じている。この数値はすこし極端なゲームのもので、NZも24-17で勝利した7月13日のイングランド戦では、パス121回、キック比1対3.4という数値に留まっている。
日本の極端なパスの多い試合運びを、戦術的なキックを増やすことで多くの強豪国のような試合運びにすることが「勝てるチーム」になるには必要だという考え方もあるだろう。エディー自身も就任時から「勝つチームはキック使っている」とキックの重要性は説いている。だが、超速ラグビーというスタイルで相手に対して優位性を持つためには、パスを使いテンポアップする要素が不可欠だという考え方が、いまの日本代表の“選択”に繋がっている。フィジー戦後の会見で、エディーはパス回数の多さについてこんな考え方を示している。
「ラグビーにおいてボールキャリーを効果的に行うには2つの方法がある。パスをしないこと、もしくはスリーパスを繋げることです。パスをせずにキャリーするためには、やはりサイズがあってフィジカルに長けていないと不可能です。今日のフィジーは、それを上手く出来ていた。だがジャパンはスリーパスを繋げるラグビーで世界一になりたいと思っています。スリーパスを繋いでキャリーをしていくことで、相手防御にどんどんプレッシャーをかけていくことができます。今日は、そこでボールを落す場面が多かったことが致命的だったというところでしょうか」
起点から展開されたボールを、意図した3回のパス(アタック)でスコアや、スコアチャンスに持ち込むのがエディージャパンの攻撃面での基本的な考え方だ。3パスまでのサインプレーなど準備された攻撃で有効な状況が作り出せなければ、キックでエリアを進めるか、ボールを捕球した相手に重圧をかける。反対に、コメントにある「パスをせずキャリーする」チームの代表格が世界最強のフィジカリティーを誇る南アフリカだ。このチームの顕著なスタッツを紹介すると、12-11でNZを下した昨秋のW杯決勝のパス回数はわずか84、キック比1対2.2という驚くべき数値を残す。
南アフリカとは対照的に、日本代表のようにフィジカル勝負では分が悪いチームは、どうしてもボールを動かし、個人技ではなく複数の選手が連携する組織プレーで防御を崩し、スコアしてく戦い方が宿命でもある。そのスリーパスという基本的なゲームの進め方の上に、SHからのキックのようなバリエーションを織り交ぜて戦うのが、第2次エディージャパンのラグビーだ。そのためには、対戦相手以上にパスミスなどを減らした完成度の高いプレーが選手に求められるのだが、テストマッチ7試合を振り返ると、段階的な精度のアップはみられるものの、先に触れたフィジー戦での自陣からのプレー選択など、まだ上位チームを凌駕するほどの仕上がりには至っていないのが現状だ。
世界13位(対戦当時)のサモアにはしっかりと勝ち切れるのに対して、同10位のフィジーには歯が立たない。もちろん、この順位差3には、財政難に苦しむサモアの実情など直近のランキングに表れない“格差”もあるのだが、来月から始まるニュージーランド、フランス、イングランドという世界ランキング5位以上の強豪との激突までに、どこまで完成度、一貫性を高めることが出来るのかという勝負が始まることになる。