五輪金メダル→プロで世界一 「夢を与える」と言わないアスリートの持論「叶わなければ負け犬か?」――ボクシング・村田諒太
ボクシングは真面目じゃないと続かない
今、いろいろなスポーツで親の勝利史上主義が話題になります。
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ボクシング界でも「息子に何を期待しとんねん」と思ってしまう親を見ます。自分ができなかったことを子どもに託す人。「子どもの人生はお前の人生ちゃうぞ」と思います。最悪の例です。
親がどれだけ言ったって仕方ない。24時間一緒にいるわけではないでしょう。無理やりやらせても、見ていないところで手を抜いていますよ。濃度の低い練習をダラダラと続けても、自分からやりたいという濃度の高い人間には勝てない。無理にやらせる親は愚の骨頂だと思います。親が何を意図して勧めるのか。「人生を彩る一つのツール」くらいの感覚ならいいのではないでしょうか。
やりたいことには自然と出会いますから。無理にやらせる必要もないし、好きならやっている。そこで夢中になる。楽しく過ごせればそれでいい。そういうものを得るためのツールとしてスポーツがあればいいですよね。
中1の長男は海外のインターナショナルスクールに行きました。自分から言い出したんです。そこで勉強して、英語を覚えて、違う世界を見てほしい。13歳の夢なんてどうなるかわからない。結局、親ができることはいろいろな世界を見せてあげること。そんなもんです。その中から子どもが選んだものに対して「頑張れよ」と後押しする。むしろ可能性を広げてあげることしかできない。
ボクシングは「子どもにやらせたいスポーツ」にあまり挙がりません。僕もさせたいと思わない。父親と比べられますし、いいものだと思っていません。たまたま僕が良かっただけ。もし、息子が本気でやりたいと言うならさせますよ。目を見たらわかります。「ほんましんどいぞ。痛いぞ」と警告します。自分の意思であればともかく、やらせるのは違う。
ボクシングは真面目じゃないと続きません。最終的に真面目な人の方が間違いなく強い。単調な練習でも、毎日ずっと同じことをできる人。その力をもともと持っている人と、競技をやることで得る人がいます。僕の場合はもともと凝り性。一つ知ると、極めたくなる気質がある。
中には「強くなって見返したい」という強い気持ちで一直線になれる人もいます。わかりやすいのは、貧しい国でボクシングを始めた選手たち。ただ、そういう人には後で破産する人が多い。貧乏から脱出したいというのは、実際に叶ってしまう。一瞬で数億円を手にし、金銭感覚がおかしくなってリタイアしていく。そういう意味でも、突き詰めたいと思っている人の方が強い。突き詰めようと思うと、永遠に叶わないから。