[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

五輪金メダル→プロで世界一 「夢を与える」と言わないアスリートの持論「叶わなければ負け犬か?」――ボクシング・村田諒太

スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

2012年8月にロンドン五輪に出場した村田諒太氏【写真:Getty Images】
2012年8月にロンドン五輪に出場した村田諒太氏【写真:Getty Images】

「シン・オリンピックのミカタ」#102 連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」第13回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 今回は連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」。現役アスリートやOB・OG、指導者、学者などが登場し、少子化が進む中で求められるスポーツ普及を考え、それぞれ打ち込んできた競技が教育や人格形成にもたらすものを語る。第13回は2012年ロンドン五輪のボクシングミドル級金メダリストで、プロでも世界ミドル級王者になった村田諒太氏。競技人生で何を得たのか。親の勝利至上主義も話題になる今、親の在り方についても語ってくれた。(取材・構成=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 ボクシングだからこそ人として成長した部分……してませんね。中学1年の長男を見ていても自分と変わらないと思う。成長したようで、していない。

 ボクシングは殴り合う競技。だから、人の痛みを知ります。夢は叶わないことを知ります。勝ち続けることに価値があるかというと、それは違うと思う。スポーツの価値はそこにあるのではないでしょうか。

 一生懸命やるけど、叶わないことがある。はっきり言って、それがマジョリティーなんだと。99.9%はそう。その上で自分がいて、同じように苦しい思いをしている人のことを知っていく。そのためのツールだと思います。

 僕は2017年5月に初めてプロの世界タイトルに挑戦しました。その時は判定負け。5か月後の再戦で勝利し、世界王者になりました。18年10月に敗れ、9か月後にまた再戦で王座奪還。何度も失敗してきました。

 少年院で講演をしたことがあり、「人生のリマッチ」としてこんな話をしました。

「僕はリマッチで勝ったから、こうやってチャンピオンになった。ボクシングだってすぐに続いたわけじゃない。最初はきつくて2週間で逃げ出した。アマチュア時代、予選で負けて2008年の北京五輪に出場できなかったし、諦めて酒を飲んで、タバコを吸って、本当に体たらく。

 いろんな失敗をしてきたけど、諦めないでリマッチをしたから今がある。君たちは人生で悪いことをしてしまってここにいるけど、これからいくらでもリマッチのチャンスがある。君たちの失敗談だっていいんだ。でも、失敗で終わらすなよ。これからあるであろう、人生のリマッチで頑張ってほしい」

 情けない失敗談ばかり。結局、ああいう子たちと話す時に成功談なんていらない。成功から学べるものなんて少ないですから。努力だけではなんともならないことがあるし、誰でも失敗する。そういう意味では、人生で失敗が多くて良かったです。

 スポーツに大した意味はありません。後から価値をつけているだけです。「ボクシングにはこんな価値がある」「夢を与える」と言う人がいますが、夢なんて勝手に見るもの。夢がなかったら、夢が叶わなかったら負け犬ですか? そう思ってしまったら可哀そう。だって99.9%の夢が叶わないんだから。

 その0.1%の夢が叶って、「俺は凄い」「How toはこうだ」と言うのでしょうか。それを追いかけた人がどれだけ惨めな思いをするのか。そんなものなら最初からない方がいい。だから、夢を叶えたことに価値を持たず、何かを追いかけていく過程の中で何かを見つける。そこで気づいたこと、できた仲間に対して価値を持っていたら、スポーツの意味合いは違ってきます。

 一直線のレールを敷いて「この中で勝ったものが全てだ」みたいな、そういう世界観はあまりいい社会がつくれるとは思いません。かといって初めから「勝つことが目的ではなく、実は仲間を見つけることが……」と言い始めると、それも違う。一生懸命にならなくなるから。中途半端な人の集まりだと、本気だからこそ生まれる絆のようなものが生まれてこない。そのコントロールが非常に難しい。

1 2 3
W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
ABEMA Jleague
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集