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「人間は罪とともに生きている」 金メダル→世界一と歩み、「人間の弱さ」を悟った人生とスポーツの哲学――ボクシング・村田諒太

醜さ、美しさを抱えながら生きていく その葛藤が結局は人生

 自分が一番強いと思ってもらえない限り、自分に価値があると思えない。自分という存在を認められない自分の弱さ、人間の弱さ。それを常に感じていたし、いまだに感じます。自分が強いと思っていた、思いたかった。だけど、実は違った。

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 自分がいかに弱くて、汚くて、醜くて、ダメなのか。それは人間誰しもが持っているもの。ボクシングは自分の弱さを知っていくためだけの旅だった。

 いい時間を経験してきたけど、人間として本質的な差はあるのか。自分が特別なことをした、努力家だ、こういうことを言った、得るべくして得た、そういう勘違いを起こしてしまう。人間はすでに何かを得たかのように振る舞い、みんなの前で「俺はこんなに活躍している。凄いだろう。俺ってイケてるだろう」と見せたがる。

 僕はそこに価値があるとは思わない。人間として汚く、未熟で、弱いところが自分にはいっぱいある。

 かといって、自分が特別汚いのかというとそんなことはない。みんな同じようなもの。中学生の時に自分は特別だと思って、自分が強いと見せたくて始めたことだった。だけど、結果として知ったのは、自分は変わらないということ。根源的なところでは、人間に大して差はない。自分は罪とともに生きている人間だなって。それが唯一得られたものです。

 全てのうちの一部でしかないことを知る。かといって、それだけで割り切って生きていくかというと、そうでもない。常に葛藤して、醜さ、ある意味では美しさ、そういうものをずっと抱えながら生きていく。その葛藤が結局は人生なのでしょう。

 他人の痛み、弱さを知ったとも言えるかな。ボクシングを通じて自分は大したことがないと知り、自分の優越心みたいなものは取れたと思います。考えていることなんて大して変わらない。だって、同じような形で生まれ、同じような社会に生まれているんですから。同じように食欲、睡眠欲、金銭欲があって、人間にインプットされたものはそんなに変わらない。

 だから、スポーツに大した意味はない。後から意味づけし、価値をつけているだけだと思います。目標に向けて一生懸命やり、何かを得て、仲間ができて楽しかった。それは勉強でも何でもいい。別にスポーツは特別じゃない。所詮はツールの一つです。

 最後の試合からまだ2年4か月。ボクシングを通じて知ったことが、引退後の人生に生きるかどうかわかりません。まだこれからだと思います。自分の経験を伝えていけることがあれば、それはそれでいいこと。その中で「ボクシングをやっていてよかった」と言えるんじゃないかな。

■村田 諒太 / Ryota Murata

 1986年1月12日、奈良市生まれ。38歳。中学2年でボクシングを始め、アマチュア時代に南京都高(現・京都廣学館高)で高校5冠。東洋大、同大学職員で全日本選手権5度優勝。2011年世界選手権で日本勢史上最高の銀メダル。12年ロンドン五輪ミドル級で日本勢48年ぶりの金メダル。13年8月にプロデビューし、17年10月にWBA世界ミドル級王座を奪取。五輪金メダルとプロで世界王者になったのは日本人唯一。18年4月にミドル級では日本人初の防衛成功。同10月のV2戦で王座陥落したが、19年7月に奪還。22年4月のゲンナジー・ゴロフキン戦を最後に引退。身長183センチ。家族は妻、長男、長女。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)


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