「マラソンは人生には例えられない、なぜなら…」 嫌なら走るのを止めればいいスポーツで人が育つこと――マラソン・谷口浩美
マラソンが人を育てる要素「忍耐力、持久力…自分をマネジメントできる」
1997年に現役を引退し、旭化成のヘッドコーチを務めた後は沖電気、東京電力監督、東京農業大学の助監督も歴任した。2017年8月から2022年3月まで宮崎大学の特別教授に就任。マラソンを通じて多くの選手と接し、自分の経験を伝えてきた。「マラソンはどのように人を育てていくのか」。このテーマについて、谷口氏は意外な見解を示した。
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「マラソンはよく、人生に例えられます。でも私は講演などで『マラソンは人生に例えられません』と言っています。なぜなら、マラソンは嫌だったら自分でレースを止めればいいからです。マラソンは自分の気持ちでどうにでもできます。でも人生は自分でどうにかしようという作業を常に考えたり、課題を作ったり、目標設定をして生きていくものです。人生は自分一人のことでもあるんですけど、周りから変えられるというのも人生です。だから人生には例えられないと思います、って答えているんです」
マラソン界で頂点に立ったことがあるからこその言葉なのか。栄光も挫折も経験した谷口氏はむしろ、昨今のマラソンブームの中で一般ランナーに対する敬意を示す。
「最近のマラソン、例えば東京マラソンなんかは制限時間が6時間とか7時間じゃないですか。6時間走るということは、会社生活においてサラリーマンが朝9時に出社して、午後3時までずっと体を動かし続けるっていうことです。その忍耐力と持続力は凄いと思います。仕事をしながらどうやって練習時間を取るかを考えるうえで、自分の生活スタイルを全部見直していることは本当にすごいなと。自分をマネジメントできているわけですから」
32年前に残した「コケちゃいました」の名言。自分の人生と真摯に向き合っていたからこそ、何の迷いもなく出た言葉だったのだろう。人生に例えられないからこそマラソンは面白い――むしろ32年が経った今、その思いが色濃く出ているのかもしれない。
(終わり)
(THE ANSWER編集部・瀬谷 宏 / Hiroshi Seya)