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「日本はプロセスを大切にしすぎる」 英独仏の3か国語を習得、欧州生活13年で培った海外を生き抜く術――サッカー・熊谷紗希

リヨン時代の同僚から熊谷は言語習得に大切な姿勢を学んだ【写真:荒川祐史】
リヨン時代の同僚から熊谷は言語習得に大切な姿勢を学んだ【写真:荒川祐史】

リヨン時代の同僚から学んだ言語習得に大切な姿勢

「私は言葉が話せないから周囲に溶け込めないとか、そういうことにストレスを感じないし、気にならないんです。喋れないのは当たり前だし、どうにかなるという考えでいました」

 それでも常盤木学園高校に首席で入学するほど、勉強も得意で熱心。言語の習得にも努力は欠かさなかった。

「文法の本を片手に読み書きして、しっかりと授業も聞く。日本の学校での勉強法ですよね。ドイツ語、フランス語、イタリア語も日本で本を買って、基本的な文法やルールをノートにきっちり書いて毎日勉強しました。ドイツ語学校にも通ったのですが、ドイツ語でドイツ語を教えてくれるので、わけが分からないと思うじゃないですか。これが案外、いけたんです(笑)。ドイツ語の文法と主要な単語が頭に入っていれば、何を言っているかが分かるようになりましたから」

 フランス語の習得話も面白い。

「リヨンでプレーしていた時は、チームの練習時間が不規則の中でも、毎日1時間は勉強していました。でもフランス語を勉強しているノルウェーの選手は、まったくノートを取らない。それでどう言葉を覚えるのか見ていたら、彼女はどんどん周りに声をかけていくんです。そこまで話せないから、間違えて笑われちゃったりする。日本人はどちらかと言えば、笑われると恥ずかしかったりしますよね。それでも彼女はおかまいなしに話すので、私よりも上達が早かった」

 さらに言語習得においては、考え方の違いにも上達の差が生まれるのではないかと指摘していた。

「例えば日本人に多いなと感じるのは、1回頭で考えて、こう言おうという考えが入ったりしますよね。思ったことをすぐに話せなかったり、これはもう言わなくていいやというタイミングが出てきたりする。でもそのノルウェーの選手は、言いたいことはすべて口から全部出てくるんです。だから私も間違ってもいいやと思って、ぶつかっていくようになりました」

 英語、ドイツ語、フランス語と3か国語を習得し、現在はイタリアで生活する。「これだけ話せれば、イタリアでもどんな選手とも会話ができて、なんとかなっちゃう世界なんです。だからか、今はイタリア語に対するモチベーションは上がっていなくて、自分に『もう少し頑張りましょう』と言っているところです」と笑う。

 常にポジティブで周囲の細かいことをあまり気にしない性格は、海外向きとも感じるが、長い海外生活の中で、“アジア人”ということで嫌な思いをしたことはなかったのだろうか。

「差別的な言動をされたことは本当にないんです。もしかしたら自分が気づいていないだけかもしれないですが、仮に何かを言われたとしても、(こんな性格だからか)心が病むこともないと思います」

 小さなことが気にならないくらい、毎日が充実しているということだろう。それに相手の懐に飛び込む上手さだけでなく、周囲とコミュニケーションを図る能力の高さも学んだはずだ。

 海外でプレーしなければ、知ることのないことが多い分、サッカーを通して世界を見る視野はさらに広まった。長く海外にいるからこそ、欧州と日本の違いや良し悪しも見えるようになった。

「日本人は自分の仕事を全うする人が多い。欧州は都合が悪くなったら『誰かに聞いて』を繰り返すんです(笑)。これでよく社会が回っているなと思うことは多々あります。人のせいにもするし、自分は知らないって平気で言ったりもする。

 フランスで自宅のWi-Fiのインターネット工事に来ると言っていた業者の人が、予約を取っていたのに当日になって風邪を引いたから行けないと連絡があったんです。その次は2か月後になると言うので、ズッコケました(笑)。そうしたら、2か月後にまた風邪を引いたと連絡が来る。これは、私が何も言わないからこうなるそうです。チームメートのフランス人選手に相談したら、そのネット業者相手に『2か月分のカフェで使ったインターネット代とカフェ代を払え!』と怒鳴っていました。まさにクレーマーという姿にビックリしていたら、1週間後にアポが取れて、業者の人も仕事をテキパキやっていましたからね」

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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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