新生ラグビー日本、勝ち切れない「超速ラグビー」 人口400万人、東欧の小国ジョージアから学ぶもの
主力のLOワーナー、SH齋藤が語る勝ち切れない理由
一方で、ワーナー個人の言動について考えると、まだ大学生の世代ながらそのラグビーナレッジ(知識、理解力)の進化に目を見張るものも感じさせられる。ジョージア戦でのチームの苦闘を指摘したのに続けて、日本がどう戦うべきだったかにも思いを巡らせている。
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「相手のフィジカルから逃げるのではなくて、相手をうまく動かしてから、また自分たちのフィジカルを見せるというやり方も良かったのかなと思います。もうすこしゲームをしっかりとコントロールしてね。トライを獲った後は皆元気で、盛り上がっていて『アタックで行こう』という雰囲気だった。たぶん、ちょっと興奮しすぎたというか、あの状況から、もう少し上手く戦っていけたらいいなと思うんです」
“敗戦の中での収穫”とはスポーツ界の常套句でもあるが、この敗戦に関しては、ディアンズの冷静なゲーム理解力がそれにあたる。序盤戦の従来以上の超速でのアタックを見せながら、自分たちの思い描く結末を描き切れないチームの苦境を客観的に観察し、どうするべきかというアイデアを試合直後に、自分なりに言語化出来ていたのだ。おそらくワーナー1人だけが傑出してこのような判断をしているのではなく、多くのメンバーが自分たちの課題を見極めていただろうし、そう期待したい。
序盤のパスワークが光ったSO齋藤の試合後のコメントも、ディアンズとは異なるアングルからこのゲームをよく物語っていた。
「人が少なかったので、どんどん早目にチームを前に出したかった意識はありましたね。そこで、キックも織り交ぜたプレーをしていた。ただ、逆にそこでの判断が良くなかった。僕もそうですし他のBKも、もっとボールを動かしながら、相手防御が上がってきたらコーナーに蹴るとか、柔軟にプレーしていかないと。ここはしっかりビデオでレビューしていきたい」
チームの攻めるマインドの中での歪みや、ゲームメーカーの不在を感じさせるコメントだが、齋藤がさらに付け加える。
「僕も迷っちゃっていた。BKが攻める方向が左右どちらかを、僕としてもちょっと明確じゃないままプレーしてしまっていた。あまりクリアにプレーできなかった。もしかしたら、ボール上げる(キック)判断でも良かったかも知れない」
以前ならSHの仕事は、ボールを司令塔のSOに供給することだった。だが、プロ化が進む中で、いまやSHを起点にゲームを組み立て、キックも積極的に使っていくポジションに転じている。いわばSOと共同でゲームを作り上げていく役割だが、いまの「超速」というスタイルの中で、ゲームメーカーまで9番に委ねるのは負担が大きすぎる。はやりSH、SOのコンビネーションでゲームを組み立てていくのが妥当だろう。
15日に発表された世界ランキングで、日本は12位から14位へ後退している。ホームゲームで、ランクが下の相手に敗れたのが響いた。勝ったジョージアが日本に代わり12位に浮上したが、仙台での苦杯は相手から学ぶべきこともあった。
ゲームデータを見ても地域支配率(日本49%)やボール保持率(同55%)は互角に近い数字だ。パス、攻撃走行距離などのアタック面のデータはむしろ日本が上だった。だが、ラグビーという競技は知性と野蛮さ、合理的なゲーム理解と通過儀礼のような勇気という相反する要素が並んで欠かせない資質になる。ゲームの50%は戦術であり、ゲーム構造であり、合理性だが、残りの50%はパッションであり根性だ。実力が拮抗する相手との試合では、この2つのどちらを欠いても勝利は容易ではない。2つのバランスをいかに保ちながら強化を進めるかが、コーチの手腕の見せ所になる。
先に触れたように、ジョージアというチームが1万5903人が見守るスタジアムで発散したのは、このパッションに他ならないだろう。どんな状況でも、自分たちのスタイルを貫き、自分自身に打ち勝つように疲労の中でも前に出る。日本選手の賢さや、真面目にプレーを履行する姿勢は誰もが認めるところだ。そこにもし、勝者が見せた迸るような情熱を学び取ることが出来れば、第2次エディージャパンは、さらに魅力のあるチームに進化するだろう。
もちろん、一朝一夕に得られないものもある。今週末の札幌で行われる夏のシリーズの最終戦の相手は、ランク8位に立つイタリアだ。昨夏には日本が敵地で21-42で敗れた相手は、新HCゴンサロ・ケサダの下で2、3月の6か国対抗ラグビーでは2勝を挙げるなど、明らかにジョージアを上回る強豪だ。新体制始動のテストマッチシリーズ全敗を回避するためには、ゲームをどう冷静に組み立て、適切な判断の下で80分間ブレずに戦うことが出来るかが鍵を握る。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)