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2027年W杯へ芽吹くエディー・チルドレンの才能 課題露呈も…短期間で「目まぐるしい成長」評価された逸材

ラグビーの日本代表、同候補選手で編成されるジャパンXV(フィフティーン)は、6月29日に行われたマオリ・オールブラックスとの第1戦を10-36で落とした。チャンスをスコアに結び付ける遂行力という課題を露呈した一方で、2027、31年ワールドカップ(W杯)での活躍を目指す新世代のジャパン戦士が大きなインパクトを残した。苦杯の中で輝き始めた“エディー・チルドレン”の実力とポテンシャルを軸に、マオリ戦第1ラウンドを振り返る。(取材・文=吉田 宏)

マオリ・オールブラックス戦でプレーする矢崎由高【写真:産経新聞社】
マオリ・オールブラックス戦でプレーする矢崎由高【写真:産経新聞社】

ジャパンXVのマオリ戦第1ラウンドを振り返る

 ラグビーの日本代表、同候補選手で編成されるジャパンXV(フィフティーン)は、6月29日に行われたマオリ・オールブラックスとの第1戦を10-36で落とした。チャンスをスコアに結び付ける遂行力という課題を露呈した一方で、2027、31年ワールドカップ(W杯)での活躍を目指す新世代のジャパン戦士が大きなインパクトを残した。苦杯の中で輝き始めた“エディー・チルドレン”の実力とポテンシャルを軸に、マオリ戦第1ラウンドを振り返る。(取材・文=吉田 宏)

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 桜のジャージーの開花宣言は持ち越しとなった。テストマッチ対象外の試合とはいえ、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)が前週のイングランドとの代表戦に続き直接指揮を執った試合だったが、ニュージーランド(NZ)先住民マオリの血を引く選手で構成された強豪に相手に、チームが掲げる「超速ラグビー」は貫けなかった。

「いまロッカールームで選手たちと、どんな気持ちかと話し合ってきました。選手からはフラストレーションが溜まっている、悔しいといった言葉がありましたが、最終的には我々の力が及ばなかった」

 開始6分のファーストトライこそ、敵陣ゴール前ラインアウトからの素早い連続攻撃から奪ったものの、そこから相手に6連続トライを許して、第2次エディー体制は始動から2連敗。会見冒頭で選手たちの落胆ぶりに触れた指揮官だが、2015年までの第1次体制では敗戦の怒りを露骨に見せていた語り口はなかった。

 代表キャップ数をみると、この日の先発15人の総数は51。1人平均3.4キャップという編成だった。ジャージーの色は違っても左胸の桜のエンブレムを身に着けた試合の重さは認めながらも、世界トップクラスの実力を誇る相手との80分間が、次世代のジャパンに経験値を積ませる“投資”のための時間だという位置づけなのは明らかだった。

 先発メンバーでノンキャップなのはLO桑野詠真(静岡ブルーレヴズ)、SH小山大輝(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、WTBヴィリアメ・ツイドラキ(トヨタヴェルブリッツ)の3人。前週のイングランド戦で代表デビューしたのが共同主将のHO原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)、PR為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、FL山本凱(東京サントリーサンゴリアス)、CTBサミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)、そしてFB矢崎由高(早稲田大2年)の5人だった。シニアレベルの国際試合は初体験に近いメンバーが15人の半数以上だったが、この“桜の蕾”たちが苦闘の中でスタンドを沸かせたのも、単なる期待感だけによるものではなかった。

 最初に大歓声を巻き起こしたのはSH小山、そして埼玉WKでコンビを組むSO山沢拓也だった。キックオフから1分も経たない敵陣での攻撃で、ラックからパスを放った小山が、自らレシーバーの外側に走り込んでボールを受け取るループプレーを仕掛けた。このサインプレーでマオリ防御を引き付けて、外側に待っていた山沢の防御突破に繋げた。HB団コンビ、そしてチームによる組織としてのファインプレーだったが、合宿で取り組みながらイングランド戦では効果的に使えなかったサインプレーで、いきなりチャンスシーンを作り出した。

 小山―山沢の埼玉ホットラインによるアタックで敵陣に攻め込むと、続いてスタンドを沸かせたのは矢崎だった。練習生からイングランド戦で代表初先発を勝ち取った20歳は、開始3分の左展開でパスを受けると、ライン防御のギャップを逃さず突いて敵陣22mラインを突破した。18分にも自陣から鮮やかなライン参加で敵陣に駆け込むなど、加速力抜群のスピードをアピールした。

「FWがいいスクラムを組んでくれていたので、自分の前にもスペースがあった。しっかり行くしかないなと決めて走りました」

 最初のランでは、目の前にいた防御2人がFWだったのを見極め、持ち味の一気の加速で凹凸のできた防御ラインの間隙を駆け抜けた。鮮やかなラン以外にも、デビューしたイングランド戦以上に積極的にボールを貰いにいくプレーを再三見せた姿に、エディーも「プロの相手にアマチュアの選手(大学生)がプレーするのは異例のことだが、矢崎はイングランド戦から2試合で目まぐるしい成長を見せている。このまま進化していくと、非常にいい選手になれると信じています」と称賛している。ゲームスタッツを見ると、ボールを持って走った総距離145mは両チームトップ。ボールを持った回数も1位の21回と、攻撃面で高い数値を叩き出している。

 スピードで魅せた矢崎だったが、課題も明白だった。最初の防御突破のシーンでは、トライチャンスとなるエリアまで走り込みながら、タックルを受けるとボールをリサイクル出来ずに、結果的にサポート選手のノックオンで得点機を逃している。後半13分に敵陣でみせたアタックでは、ボールを持ち込みすぎて矢崎自身が相手のジャッカルに反則を犯している。積極性が仇になったプレーだが、このような攻め急ぎ過ぎからの反則、ミスでチャンスを失うシーンを矢崎以外の選手も含めて頻発させたのも、遂行力不足という課題に繋がっていた。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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