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10歳で母から離れ、出会った育ての父 「悪ガキ」だった武居由樹がボクシングで届けた涙の親孝行

判定結果がコールされ、涙を流す武居【写真:荒川祐史】
判定結果がコールされ、涙を流す武居【写真:荒川祐史】

最終12回に受けた猛攻…リングサイドで「早く終われ」

 プロテスト受験の際、大橋ジムでは保険に入る。武居が受取人に決めた相手は古川会長。申込書の続柄に迷わず書いた。

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「父」

 同じ格闘技とはいえ、2つの拳だけで戦うボクシングは別物だった。ラウンド数も3回が基本のK-1とは違い、ボクシングは最長12回。ペース配分に最も苦労した。師事する元世界3階級制覇王者・八重樫東トレーナーの方針は「大きな丸をつくるつもりはない。尖った一本槍です」とKOアーティストに特化。古川会長に磨かれた格闘技センスと持ち前の野性味を信じ、理論を伝えていった。

 武居の拠点は大橋ジムだが、週に数回は古川会長のジム「POWER OF DREAM」で筋力トレーニング。21年3月のデビューから3戦連続初回KOを飾り、8試合全てKO勝ちを決めた。巡ってきた世界初挑戦のチャンス、舞台は東京D。古川会長に世界戦決定を報告した。「普段はあまり感情を出さない人。だけど、そうとう喜んでくれて、めちゃくちゃ気合いが入っていた」

 何の運命か、5月6日は「父」の誕生日だった。

「最高の親孝行をしたい」

 相手は過去に井上にKO負けしたとはいえ、ハイレベルの技術を持つ世界王者マロニー。武居はわずか9戦目の世界挑戦に「時期尚早」「無謀」とまで言われたが、強敵こそが心を燃やせるものだった。

 4万3000人が集まった東京D。ポイントをリードし、古川会長と掲げた夢の世界王座まであと3分、最終試練が訪れた。王者に何十発もパンチを浴び、今にも飛びそうな意識。レフェリーに止められた瞬間、負けが決まる。「早く終われ」。父がリングサイドで祈った。

 本能が足を奮い立たせ、打ち返した。日本ジム所属選手100人目の世界王者が誕生。トレーナーに抱かれ、泣いた。出会って17年、育ての父をリングに上げると、普段は照れ臭くて言えないことをインタビューマイクに乗せた。

「本当に、育ててくれてありがとうございます」

 夢を叶えた息子からの誕生日プレゼント。「オヤジ」と呼ばれ、湧き出る感情とは。「別に、普通かな。男同士はみんなそうでしょ」。素っ気ない言葉とは裏腹に、押さえきれない喜びが目尻のしわに溢れていた。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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