「早慶戦も可能な1~2万席のラグビー場建設を」 東京の行ったことがない区1位・板橋で動き始めた夢
「行ったことがない区」1位になった板橋でラグビー文化を1つのフックに
では、任意団体に近い組織が、果たして区側と官民連携で、巨額の区の予算を使うグラウンド整備・造成事業にどこまで影響力を及ぼすことが出来るのだろうか。もちろん協会側も高いハードルを認めている。だが、成田校長が指摘するように、協会と共同歩調を取る企業、大学チームもなく、小中高の活動も少ない中で、グラウンドを確保して、ラグビーを活性化するためには、どうしても官側の理解や支援が欠かせないという現実を踏まえて、官民連携を強めていきたいという選択肢に辿り着いた。
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同協会では「VISION(ビジョン)―板橋区にラグビーのレガシーを創る!」という資料を作成。関係者と同時に、坂本健板橋区長、区側にもラグビーの普及活動などの価値を訴えてきた。この資料によると、板橋は「行ったことがない区」で東京23区中1位(ワースト)。しかも30~60代以上の各世代でワーストになっている(2017年調べ)。宮澤事務局長は、板橋区内に多くの人が集まる商業施設や観光地を持たないことも、区の魅力を発信することの難しさに影響しているという。
「どこかで見ましたが、板橋区といって連想するものは何かというと高島平団地だという。マンモス団地というイメージくらいしかない。板橋に人が来るようにしないとだめだというのは、おそらく坂本区長も区民誰もが感じているはずです。そこでラグビーの文化を、1つのフックに出来ないかというのが私たちの思いです」
「VISION」では、区内の荒川河川敷を板橋の“資産”と位置付け、その最大の利用価値としてスポーツ環境の整備・充実を訴えている。簡単に言い換えれば、スポーツを板橋の魅力に繋げようというコンセプトだ。先に挙げたロードマップ末尾には「行ってみたい街 板橋、文化の街 板橋の創造」と謳われているのだが、これは行政へ向けたアピールでもあるだろう。
区側でも荒川河川敷の整備は重視している。国交省が河川空間と町を結び付けて地域活性を呼びかけるプロジェクト「かわまちづくり支援制度」に応じる形で、同区の基本構想「ITTA KAWAMACHI PROJECT(板橋区かわまちづくり基本構想)」を今年1月に発表。荒川周辺を整備、再開発して、区民が楽しめる魅力的な空間を創造しようという取り組みに着手する。この構想では、スポーツに限らず災害時の区民の安全確保や自然環境の保護なども織り込んだ「自然型アーバンリバーパーク」というコンセプトの下に5項目のテーマを掲げているのだが、その筆頭に「スポーツ・カルチャーイベントの発信の場」を打ち出している。
この区によるスポーツに関連したテーマに、自分たちのコンセプトを盛り込んでいきたいというのが区協会側の思惑なのだが、坂本区長と数回の会合を持つ中で、先の板橋区基本構想の整備計画の中には「ラグビー場」と唯一の競技名が盛り込まれている。区側は、板橋区協会がラグビースクールを立ち上げた時も、練習場として小学校のグラウンド使用を認めるなど支援をしてきた。このような“蜜月”関係を、さらに拡大していきたいというのが区協会の思惑だ。
では、実際のグラウンド整備などハード面については、どんな進捗状況なのか。先の「KAWAMACHI」の整備は、現在は「第1期」として、荒川水害時の河川敷からの避難ルートや、緊急避難所となる250mの陸上トラックを持つ小規模なグラウンド等の整備が着手されている。「ラグビー場」も明記された河川敷のスポーツ、自然環境などの大規模な造成を伴う「第2期整備」は、第1期が終わる2025年度からの着手を目指している。宮澤事務局長は「大規模な税金も使う事業。議会でも賛否はあるはずです。計画通りに進まず、整備規模の縮小という可能性もある」と不安材料も指摘する。第2期整備がプラン通り進むためには、区や区長サイドがどこまで構想の実現に強い意欲を持つかがキーポイントになりそうだ。
大きな夢として思い描く「スタジアム」は、さらにその先の挑戦になる。現時点では区としても全く白紙の事案で、用地すら検討されていない。つまり協会側が独自に掲げる青写真に過ぎない。訴求材料があるとすれば、「かわまち構想」のように、区側にどれだけラグビー(スポーツ)をプレーし、楽しむ環境を整えることが魅力のある街創りのために価値があると感じさせるかが大きな課題になる。