阪神の足を変えた男 異端の「走り指導のプロ」が36歳でもう一度“世界”に挑んだ理由
9月にスペインで行われた陸上の世界マスターズ。タレントの武井壮、北京五輪400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治らが400メートルリレー(45歳クラス)で優勝し、日本でも話題を呼んだ“生涯陸上”の祭典に挑んだ一人の「プロスプリントコーチ」がいた。秋本真吾氏。現役時代、400メートル障害の選手として活躍した元陸上選手だ。現役を退いて6年、指導者としての立場を築きながら、なぜ秋本氏は走ろうと思ったのか。
「プロスプリントコーチ」秋本真吾氏が世界マスターズ陸上に挑戦したワケ
9月にスペインで行われた陸上の世界マスターズ。タレントの武井壮、北京五輪400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治らが400メートルリレー(45歳クラス)で優勝し、日本でも話題を呼んだ“生涯陸上”の祭典に挑んだ一人の「プロスプリントコーチ」がいた。秋本真吾氏。現役時代、400メートル障害の選手として活躍した元陸上選手だ。
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現在はアテネ五輪1600メートルリレー4位の伊藤友広氏とともにスプリント指導のプロ組織「0.01 SPRINT PROJECT」を主催し、小学生などの一般の子供はもちろん、プロ野球・阪神の臨時コーチを務める。昨季は効率的な“正しい走り”を身に着けさせることでランニング中にまつわる故障をゼロにし、福留、鳥谷といったベテランも驚いた指導で改革。2軍に専念した今季はリーグ新記録の163盗塁をマークし、変化をもたらした。サッカー日本代表選手など、多岐にわたるスプリント指導で結果を残している。
そんな36歳が、現役を退いて6年、指導者としての立場を築きながら、なぜ走ろうと思ったのか。
「野球選手、サッカー選手はもちろん、子供に教える時もデモンストレーションを見せるんですが、それが昨冬くらいに質が落ちているなと感じる瞬間がありました。ジャンプとか、走りとか。実際に見せた時に練習法がダメとかではなく、自分の質が落ちてハイクオリティの実演ができていないと感じ、まずいと思いました。もう一度、走れる状態に持っていこうと思ったのがきっかけです。そのためには目標を決めてトレーニングをしっかりとしたいと思って試合に出ようと思いました。
身の丈に合ったものとなると、今年に行われる世界マスターズを目標にしようと思いました。100、200メートルの短い距離の方がトレーニングをする上ではやるべきトレーニングも割と絞られてくるのでそこまで難しくはないんですが、敢えて現役時代にやっていた400メートルハードルを選びました。ピークを合わせていく過程を知っていて、一番大変な種目なんですけど、敢えてそちらを選びました。全てはハイクオリティな指導につなげるためです。ゼロになった肉体、筋力を立て直していく過程で気づきが絶対あるし、それを選手、子供の指導に最終的に落とし込むんだと思ってやっていました」
その裏には“動ける指導者”という理想の姿があった。現在、スポーツ指導の現場において指導者は椅子に座って指示するだけ――という在り方が当たり前になっていることに疑問を感じている。
「指導者、コーチが実際にクオリティーの高い指導を見せたら動きに変化が出るというのは何万人という子供を見てきて感じてきました。今、主催している『0.01 SPRINT PROJECT』は正しい技術をきちんと説明をできるし、指導も実際に見せられるという両軸を他にはないクオリティーとして“寄り添う”“見せられる”本格的な指導を目指しています。もちろん年齢的にそういった見せる指導ができる限界もあります。でも、できるうちは、動けるうちはやっておきたいと思ったんです。その蓄積がやがて僕が動けなくなった時に動けて見本を見せることができる重要性を次の指導者になる人たちに伝えたいとも思いました。
テニスの大坂なおみ選手のコーチが素晴らしいと言われるのは言葉かけも優れていますし、ラリーも一緒にできています。僕自身、野球、サッカーは専門外なんですが、走るという点では共通していますし、自分なりのチャレンジとして、実際に野球のスパイクを買って走り、盗塁もしてみましたし、サッカースパイクを履いてフルコートで試合もしてきました。ただ、そのクオリティが下がり、頭で分かっていても、もし『じゃあ、見本を見せてください』と言われた時、できていないというのは嫌でした。だから陸上の試合に出ることでしっかり練習して鍛えようと」
思い立ったのは1年前。しかし、実際に挑戦を始めてみると思った以上に壁は高かった。