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井上拓真が評価を一変させたKO防衛 兄・尚弥の残像を拭い去るまで「前は退屈だったと思う」

練習してきたボディーを決め、アンカハス(手前)をダウンさせた瞬間の拓真【写真:山口比佐夫】
練習してきたボディーを決め、アンカハス(手前)をダウンさせた瞬間の拓真【写真:山口比佐夫】

真吾氏「尚弥と拓真の試合で初めて涙をこぼした」

 今回も強敵相手だからこそ、勢いよく飛んでくる父の言葉。「父の『もっと強くさせなきゃ』という気持ちが伝わってきた」。拓真は応えながらも不安に襲われた。「自分はチャンピオンになったばかりの新人。名王者にどれくらい通用するか。試合が始まらないとわからない」。父の厳しい指摘、兄の過酷な練習にくらいついた。「不安な時こそ練習量で消すしかない」

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 迎えたリング。「不安がいっぱい。勝てるかわからない」。尚弥にお願いし、チャンピオンベルトを掲げてもらいながら入場した。序盤から相手の勢いをいなす自分のペース。「いつものつまらない試合になる」。中盤、足を止めた。かわした後に打ち返す。「どっちが我慢強いか」。9回、接近戦から右拳で腹をえぐった。崩れ落ちる挑戦者。10カウントだ。練習通りの一撃だった。

「変わったところを見せたかった」

 バンザイするほど大喜びした兄と父に抱かれ、涙した。視界が歪んでいたのは父も同じだった。

「尚弥と拓真の試合で初めて涙をこぼした。それくらい嬉しかった。尚弥は凄くいい試合があるけど、拓真はまだ殻を破れていなかった。それは自分も、本人もわかっている。試行錯誤して殻を破ってくれた。ウルウル来ましたね。本人もきつかったと思うんですよ」

 尚弥も「感動した。本当に素晴らしい試合」と興奮。「強気、強気のボクシング。攻撃を強めてディフェンスもする。攻撃が最大の防御。今日はそういう試合だった。一皮むけて評価が変わってくれたら」と願った。兄弟の比較には「自分たちはそうでもない」と意識していない。「拓真はメンタルも強い。メンタルが弱かったらとっくにやってられないですよ」

 世界最強の兄と比較されながらも、拓真が必死でついてきた理由は明快だ。

「単純にボクシングが好き。自分も強くなりたくてやっているし、比較されるから辞めるとかはない」

 この日WBC王座を奪取した中谷潤人、IBF王者エマヌエル・ロドリゲス、WBO王者ジェイソン・マロニーが君臨するバンタム級。日本人は7人の世界ランカーがいる。拓真の次戦はWBA1位・石田匠(井岡)との指名試合。5月に計画される尚弥―ルイス・ネリ戦の東京D興行に入る見通しだ。

「兄弟で同じ日の試合は、切磋琢磨しながら調整できる。目標は4団体統一。達成するまで負けられない。井上拓真のボクシングを完成させるために、アウトボクシングだけではなくいろんなものを取り入れる。次も見せ場をつくりたい」

 デビューから変わらないのは強敵を求めること。世界戦も再起戦も、対戦相手の質はいつも高い。抜群のテクニックとスピードに、KOシーンを生み出す勇気が加わった。真吾氏も「まだまだ伸ばすことができるので、今後に期待したい」と話せば、尚弥も「拓真は拓真のボクシングをすればいい」と独自の“色”を期待。努力で分厚い殻を打ち破った事実が、井上拓真に期待する理由になる。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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