井上尚弥、「ここで伝えたい」と敢えて触れたリング禍 MVPスピーチで果たした責任とその意味
堤が「この試合を選んでくれてよかった」と話した理由
さらに大橋会長は「ただ、我々は限りなく『100%安全』に近づけるように努力しないといけません」と続けた。「賛否はあると思います。どの意見が正しいとかではありません」と語る通り、事故が起きた試合が表彰されることに一部から否定的な声もあった。再発防止策の必要性は関わる誰もが理解している。
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一方、努力・敢闘賞と年間最高試合賞の2冠で出席した堤は「いろんな意見がある」「家族のことを思うと言葉が出ない」としつつ、「この試合を選んでくれてよかった」と話した。
「この試合じゃなかったら『どれ?』と皆さんが迷うと思う。試合後に起きたことではなく、試合内容、あの30分間を見ると、互いに持ち味を全部出した試合。やった僕らにしかわからないものがある。穴口選手は本物。彼は本物でした。悔やまれるのは今日、一緒にいられなかったこと。心よりご冥福をお祈りいたします」
その後もSNSを更新。「試合を観た全ての人に この試合を一生忘れないでください」とつづった。
井上はメインイベントだったマーロン・タパレス戦直前の控室で、ウォーミングアップをしながら堤―穴口戦をモニターで見ていた。まだ意識不明が公となる前だった試合翌日の会見では、「凄い熱戦。セミであれだけ熱い試合をされたら、『それ以上の試合を』という気持ちにもなります。両選手に拍手を送りたいです」と技術力の高い試合を称えていた。
井上の興行は、普段ボクシングに馴染みのない人も多く観戦する。その興行であれだけハイレベルな試合が生まれたことには大きな意味があるはずだ。事故が起きた以上、美談にしてはいけないし、否定的な声があるのは当然。でも、腫れ物のよう扱うことには違和感がある。注目が集まる晴れの舞台で、井上が「心の中で生き続け、輝き続ける」と触れたことが大切だったと思う。
井上は式典後の取材で「伝えたいことは、あれ(スピーチ内)だけじゃなくいろいろありますけど、それは今この場で言うことではないと思っています」と話すに留めた。次戦は、5月に東京Dで元世界2階級制覇王者ルイス・ネリ(米国)と対戦することが米メディアに報じられている。東京Dのボクシング興行なら1990年マイク・タイソン以来。「気合いが入っています」。今は勝ち続けることに邁進する。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)