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「2度と一緒にやりたくない」陰口もある妥協なき指導 “劇薬”エディー・ジョーンズと日本ラグビーの課題

代表強化の環境は日本協会全体で真剣に検討する必要

 エディーのHCとしての取り組み方、そしてその強みも考えておきたい。プロコーチとしてのキャリアは1995年の東海大がスタートラインになるのだが、それ以前にオーストラリアで実践したラグビーがバックグラウンドにある。先にも触れた浅く、狭いアタックラインでパスを繋ぐ攻撃的なスタイルというベースの上に、サントリー(現東京サントリーサンゴリアス)監督時代には、ボールを一方向に連続して攻撃を仕掛けるシークエンスラグビーを落とし込み、ボールが常に動き続けるラグビースタイルで2010、11年の日本選手権連覇を果たした。日本代表HCに就任してからも、アタッキングラグビーを基本に、シェイプと呼ばれる複数の攻撃ラインを作りながら攻める戦法を導入。フィジカル強化を上乗せしながら、日本選手の運動量や勤勉さ生かしたスタイルを追求してきた。

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 そんなエディー流の強化の基礎になったのが選手、チームのプレーの徹底したデータ化だ。世界の強豪国で広まりつつあったGPS(全地球測位システム)により選手のパフォーマンスを数値化して、日本のラグビー界では当時ほとんど取り入れられていなかったS&C(ストレングス・アンド・コンディショニング)コーチを招いて、数値で足りない筋力、パワー、そして持久力などの強化を推し進めた。その結果として、強豪相手にも接点で自分たちが求める速いテンポで球出しできるチームへと鍛えたことが“ブライトンの奇跡”の伏線にある。

 このような第1次エディー・ジャパンの取り組みのキーになったのは情報戦だろう。前述のGPSも然りだが、世界最先端のラグビーシーンが何に関心を持ち、何に取り組んでいるのか――。世界の動きを即時に知れる情報時代ではあるが、ラグビー界では、強豪チームやリーグで、何らかの模索がトレンドになり、グラウンドでどんなことが取り組まれているかが、世界各国の代表チームやクラブに下りてくるには相当な時差があるのも事実だ。

 そのような世界の流れを掴むのに、世界の強豪国のコーチは心血を注ぎ続けている。その中で、通常なら1週間、半年かかるところを、数日、1か月でキャッチし、仕入れ、チームに身に着けさせることに長けていたのがエディーのコーチとしての資質でもあった。彼特有の旺盛さ、貪欲さの賜物だと言ってもいいだろう。

 代表強化の環境については、エディーだけではなく日本協会全体で真剣に検討する必要がある。今秋のW杯で、日本代表は目標に掲げたベスト8超えどころか、8チームによる決勝トーナメント進出もならなかった。その背景には2020年シーズンでのスーパーラグビーからの日本チームの離脱や、コロナ感染による強化活動の停滞などが影響している。12月9、10日にアップしたコラムで、日本協会の岩淵健介専務理事は、このような“空白”も代表首脳陣と話し合いながら強化環境を整え、活動スケジュールを立ててきたため成績に大きな影響を及ぼした理由ではないと説明しているが、最終的な総括はまだ検証中だ。では、エディー自身は、日本代表選手のレベルを上げていくための環境作りをどう考えているのか。

「南アフリカ代表を見てみると、2015年のW杯で日本に敗れて同国史上最悪の状態になった。だが、国内リーグのシステムをカリーカップ(国内最高峰リーグ)の16チームから6チーム(23年シーズンは8チーム)に変え、スーパーラグビー参加を北半球に移行させるなど様々な取り組みをすることで2019、23年と栄誉ある立場(W杯連覇)を勝ち取ることが出来た。日本もそういう変化の行方を見ていく必要があるが、いまはリーグワンが波に乗ってきて、とても質が高いラグビーを見せている。まず、この状況がどうなっていくのかを見据えていきたい」

 世界のトップ選手が大挙して参入するリーグワンが、日本代表クラスの選手の強化に役立つという期待感を示しながら、どこまで効果があるのかを見定めていくことになりそうだ。その一方で、リーグワンは多くの海外スター選手とカテゴリーAという日本人選手と同等の条件でプレー可能な、トンガなど海外からの留学生が大幅に増えているという現実もある。エディーは会見で「出来れば代表に、いまより日本選手を増やしていきたい」と語ったが、確かに一握りの選手は出場機会を掴み成長していくだろうが、この環境で果たして日本選手がどこまでリーグワンチームに入り、経験値を積み、日本代表へと成長出来るかは不透明な部分もある。エディーは、この日本の学生レベルの選手の育成、意識改革にも踏み込んでいる。

「大学ラグビーにもっとスポットライトを当てて、学生たちに、さらにベストなラグビーがしたい、より上のレベルに行きたいと思わせるにはどうしていけばいいのか、どう変えていけばいいのかが重要だと思う。それがスーパーラグビーでもいいし、新しい大会に参加することもあるかも知れないが、なんらかの形でモチベーションを高めたり、原動力になるような工夫が必要かなと思います」

 本来、日本代表HCに求められるのは、代表チームを勝たせることだ。若手の育成も、その強化の一端ではあるが、それは日本を含めた多くの国で世代別代表のコーチが担ってきた。だが、エディーの会見では言葉と、岩渕専務理事の話からは、より幅広い世代までを網羅した強化を求めていることが判る。

 正式に就任する年明けから、エディーは高校、大学の大会視察も希望していると聞く。あらゆる世代、大学と社会人などという従来の垣根を乗り越える術を「エディー・ジョーンズ」という変化や改革を厭わない剣で達成しようという協会首脳のシナリオも滲むエディー劇場は、新体制選考という第1章の幕を閉じ、いよいよ実際の代表強化という第2章の幕開けを待つことになる。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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