NBAスーパースターのカリーが74億円を寄付へ 慈善団体を通じて目指す教育支援の背景とその全容
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「NBAスーパースターのステフィン・カリーが目指す教育支援」について。
連載「Sports From USA」―今回は「NBAスーパースターのステフィン・カリーが目指す教育支援」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「NBAスーパースターのステフィン・カリーが目指す教育支援」について。
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NBAウォリアーズのステフィン・カリーと妻のアイシャ・カリーさんが立ち上げた『Eat. Learn. Play』という慈善団体が、カリフォルニア州オークランドのオークランド統一学区に2026年までに計5000万ドル(約74億円)を寄付すると発表した。カリー夫妻が全額を寄付するわけではないが、この慈善団体の運営費の100%を負担し、さらに企業や個人に寄付を呼びかけることによって、目標額の寄付をするというものだ。この団体は2019年に設立され、ここまでに4700万ドル(約70億円)を調達したという実績を持つ。協力企業には、医療保険団体のカイザー・パーマネンテ、ウォリアーズ、チェイス銀行、楽天などが並んでいる。支援の内容は、この団体の名前である『EAT.LEARN.PLAY』という3つの単語が表しており、オークランド統一学区という公立の学区を通じて、子どもたちに食事、学び、遊びを提供している。
カリフォルニア州では6歳から18歳までを義務教育と定めており、公立の小学校、中学校、高校での教育は公金で行われている。しかし、同じ州の公立校に通っていても、地域の税収格差や学区の財政の混乱で、受けている教育に差が出てしまうケースは珍しくない。本来ならば公金で行われる義務教育だが、その大きな不足部分を補うために、カリーの慈善団体が助けを差し伸べた格好だ。
オークランド統一学区の学区全体の貧困率はそれほど高くはないが、メジャーリーグ・アスレチックスの本拠地であるオークランドコロシアム近くの学校では児童の9割が低所得世帯の子どもたちだ。また、オークランド統一学区の近くには裕福な学区が多く、これらの学区はより高い給与、よい条件で教員を雇用できることから、教員採用の競争でも不利になり、教員としてのすべての資格を満たさないまま、教壇に立っている教員の割合も多い。さらに、学区の財政が失敗続きで赤字が膨らんでいると指摘されている。低所得世帯の子どもは家庭でも苦しい生活を強いられるだけでなく、通っている学校でも財政の混乱などから十分な教育を受けられないといった状況にある。
具体的にどのような支援を行っているのだろうか。まず、食からみていこう。この学区では、児童・生徒の77%が低所得世帯のための昼食代減免措置を受けていて、家庭で安定して食事を得られない子どもが37%もいる。学校を通じて子どもたちに健康的な食事を食べてもらえるようにするために、学区の新しいセントラルキッチンがフル稼働できるように助け、年間で600万食を提供できるようにする。また、夏休み期間中には、地元のフードバンクやレストランと協働し、バスを使って、児童・生徒やその家族に総計で200万食を提供するとしている。
学びでは、読解力の向上に力を入れている。オークランドでは、人種的マイノリティである黒人、ラテンアメリカ系の小学校3年生の85%が学年相応の読解レベルよりも低い状態にある。そこで、学年相応の読解力に達していない子どもたちのすべてに個人指導を提供するとし、これらについては公共図書館を含む識字・読解の専門パートナーと協力するとしている。さらに、さまざまなチャンネルを通じて、無料で本を提供することも約束している。カリーはお金を出したり、集めたりするだけでなく、イベントでは自ら読み聞かせも行っている。