井上尚弥は逃げない 大橋会長が語るマッチメークの流儀「負けを恐れる必要ない」
ロマゴンに敗れた八重樫が発した衝撃の一言「尚弥なら勝てますね」
――八重樫選手は負けたけど、名を上げた試合でしたね。
「もう一つよく覚えているのが、試合が終わって倒れている八重樫のところに駆け寄った時、あいつの第一声が『尚弥だったら勝てますね』だったことです」
――ロマゴンVS井上尚弥は一時、ファン垂涎のカードでしたが、17年3月にシーサケット・ソールンビサイに敗れてWBCスーパーフライ級王座から陥落。ロマゴンが9月の再戦でも敗れて井上選手とのドリームマッチは実現しませんでした。
「あれもロマゴンがシーサケットとの再戦に勝っていれば、年末に対戦する方向で話が進んでいたんですけどね。ロマゴンが負けて、遠のいてしまいました」
――いずれ井上選手にも、八重樫選手のロマゴン戦のような、素晴らしい好敵手との試合が実現してほしいものです。
「それはもちろんです。もう一つ、レジェンドと対戦したことがその後の人生に生きた話を紹介しましょう。ロペスは引退後、私と対戦した時のことを語っていて、それによると、私と最初に握手をした時、私の握力が強くて足が震えた、それを隠すのが大変だったそうなんです。また、試合前にメキシコ国歌が流れた時、恐怖のあまり涙が出てしまったとも話していました。実際に映像を見ると、ロペスが泣いているんですよ。選手ってみんな怖いのを隠す、強がるんです。だから私はロペスの話を出して、『あのリカルド・ロペスだって足が震えるんだ。怖いと思うのは恥ずかしいことじゃない。恐怖に立ち向かうことが大事なんだ』と話すんです。こういう話を選手にできるというのも、ロペスと対戦したおかげだと思いますね」
強敵とのマッチメークは、黒星を喫するリスクよりも、得るものが多いと語る。もし現役時代にロペスと戦っていなかったのなら今の大橋会長はなかったかもしれない。また八重樫もロマゴンとの対戦で名を上げ、テレビのバラエティー番組などにも引っ張りだこだ。“本物”を求める時代だからこそ、その姿勢が受け入れられているのだろう。
最終回は目前に迫ったWBSSで最もマークする相手について。また今やすっかり定着した“モンスター”の愛称。その名付け親である大橋会長が、意外な誕生秘話を明かした。(続く)
【第1回】井上尚弥、強すぎるがゆえの悲哀 大橋会長の苦悩「今は勝てそうな王者を選べる」
【第2回】井上尚弥、3階級制覇の舞台裏と幻のフライ級挑戦 大橋会長「今頃4階級王者だった」
【第4回】井上尚弥、適正階級はスーパーバンタム!? 大橋会長が描く将来像「37歳まで現役なら」