井上尚弥は逃げない 大橋会長が語るマッチメークの流儀「負けを恐れる必要ない」
デビューから16連勝(14KO)という圧倒的な強さで快進撃を続ける井上。対戦相手のマッチメークという重要な役どころを演じているのが元WBC、WBA世界ミニマム級王者・大橋秀行会長だ。大橋会長は類まれな才能を有する“怪物”をいかに“モンスター”に育てたのか。「THE ANSWER」ではインタビューを行い、その秘密を「モンスターの育て方」と題し、4回に分けてお届けする。第3回は強い相手から逃げない、「負けて強くなる」大橋流のハードなマッチメークについて。52戦無敗の伝説的王者、リカルド・ロペス(メキシコ)と対戦した自身の経験や、当時パウンド・フォー・パウンド最上位のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に挑戦した八重樫東を例に“無敗至上主義”に真っ向から反論。またロマゴンに敗れた直後に大橋会長が八重樫から聞いた、衝撃の一言も教えてくれた。
大橋会長直撃インタビュー/「モンスターの育て方第3回」
ボクシング日本最速3階級制覇王者の井上尚弥(大橋)が出場するバンタム級の賞金トーナメント、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)。井上は1回戦(10月7日・横浜アリーナ)で元WBA世界スーパー王者のフアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)と対戦する。
【第1回】井上尚弥、強すぎるがゆえの悲哀 大橋会長の苦悩「今は勝てそうな王者を選べる」
【第2回】井上尚弥、3階級制覇の舞台裏と幻のフライ級挑戦 大橋会長「今頃4階級王者だった」
【第4回】井上尚弥、適正階級はスーパーバンタム!? 大橋会長が描く将来像「37歳まで現役なら」
デビューから16連勝(14KO)という圧倒的な強さで快進撃を続ける井上。対戦相手のマッチメークという重要な役どころを演じているのが元WBC、WBA世界ミニマム級王者・大橋秀行会長だ。大橋会長は類まれな才能を有する“怪物”をいかに“モンスター”に育てたのか。「THE ANSWER」ではインタビューを行い、その秘密を「モンスターの育て方」と題し、4回に分けてお届けする。
第3回は強い相手から逃げない、「負けて強くなる」大橋流のハードなマッチメークについて。52戦無敗の伝説的王者、リカルド・ロペス(メキシコ)と対戦した自身の経験や、当時パウンド・フォー・パウンド最上位のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に挑戦した八重樫東を例に“無敗至上主義”に真っ向から反論。またロマゴンに敗れた直後に大橋会長が八重樫から聞いた、衝撃の一言も教えてくれた。
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――前回までにいろいろとお話をうかがって感じたのは、井上選手が強いのは分かるのですが、挑戦者たちが強いチャンピオンとの対戦を避けるというのはちょっと寂しいなということです。井上選手から少し話はそれますが、そのあたりもお聞かせ願えればと思います。
「ファンから見れば、より強い選手と試合をするのは当たり前だし、何より『見たい!』と思うでしょう。一方で、ボクシング界には『ボクシングは1回負けたら終わり』という考え方があるんです」
――確かにボクシング界には“無敗の商品価値”というものがありますね。無敗でいることに価値があると。
「それとは関係ないかもしれませんが、昔のプロモーターっていかに弱い選手を連れてくるかが腕の見せどころという部分があったんです。弱い選手というか、勝てる選手ですね」
――それはいつ頃の時代の話ですか?
「少なくとも私が現役だった90年代あたりまではそうでしょう。いや、もう少し後でもそうかもしれません。ただ、今はインターネットもSNSも発達して誰でも情報が簡単に入手できる時代です。海外の選手であれ、すぐに戦績から試合の映像から見られますからね。昔は『タイ国強打者』と言っておけば、ファンは『オーッ!』と思ってくれたけど、今はそういうのは通用しませんから」
――それでもなお、勝てる選手を選びたいという人情も分からないわけではありません。大橋会長はプロモーターの立場で、自分のところの選手が勝てそうにない、だからその試合は避ける、ということはありますか?
「選手の意思が大事ですけど、私自身は予想が不利でもけっこうやらせちゃいますね。というのは、負けても得られるものが多いということを知っているからなんです。私は世界チャンピオンになりましたけど、それまでに3回も負けてますから。そもそも古巣のヨネクラジムから生まれた世界チャンピオンは5人いますが、無敗のまま世界チャンピオンになった人って一人もいないんです。ガッツ石松さんなんかデビュー戦で負けていますよ」