ラグビー日本戦激闘に見たノーサイドの本質 「人種、国境の区別がない」両国ごちゃまぜの客席
日本とサモア、どちらのトライにも熱狂する中立ファンの存在
午後9時、決戦の笛が鳴った。客席全体を見渡すと、サモアよりも日本ジャージーの方がやや多い印象。だが、大半がどちらでもない中立ファン。「ラグビーの首都」と言われるトゥールーズだけあって、1次リーグ突破を占う一戦を見に来たのだろうか。前半13分に先制トライを奪ったのは日本。その瞬間、客席の8割以上が両手を挙げ、立ち上がったように見えた。
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後半35分を過ぎ、28-15で日本リード。勝敗が決しつつある中、ふと場内の大型モニターを見上げると、サベリノさんが大きく映し出されていた。全身を使って何度も両手を叩き、絶叫しながら母国を鼓舞。熱い、諦めない。鬼の形相が映るモニターはさらに熱を帯びた。
そんな声に押されたサモアは残り2分、猛然と日本防御に襲いかかり、追撃のトライ。最初は日本のトライに興奮していたはずの観客のほとんどが立ち上がり、沸騰した。
ラグビーは他の競技と違い、座席位置にホーム、アウェーなどの区別がなく、どこに座ってもいい。ごちゃまぜの客席はどちらを応援してもいいことを意味する。外国人でも条件を満たせば代表に入れるように、ラグビーは人種、国境などで区切りをつけない。
6点差、最後までわからない激闘。ノーサイドを迎え、80分間を楽しんだ3万1794人の観客から両国に拍手が注がれた。
国境を越え、平和をもたらしてくれるラグビーの力。「その通りだね」と笑みを浮かべていたサベリノさんの言葉を思い出す。試合後の取材エリア。選手を待つ間、壁を隔てた先、すぐそばのスタジアム外から順番に聞こえてきた。
「ジャポン! ジャポン! ジャポン!」
「サモア! サモア! サモア!」
両国のエール交換だろうか。「ノーサイド」。この言葉の本質を改めて感じさせてくれる時間だった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)