「本当の意味で世界の仲間入り」 8位快挙の田中希実が葛藤、最後に笑えた8日間の世界陸上
「何の涙かわからない」と漏らしたオレゴンから1年「自分自身への許しが必要なんだな」
奮い立った5000メートル予選。従来の記録を15秒近くも縮める衝撃の日本新を叩き出した。日本人初の個人3種目に挑戦した昨年オレゴン大会は、1500メートル準決勝敗退、800メートル予選落ち、5000メートルは決勝12位。最後は取材エリアに訪れるや否や、「何の涙かわからない」と感情が堪えられなかった。
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昨年の借りを返そうとした1年間。覚悟を決めるため、プロランナーにも転向した。歩みを振り返ると、声が震える。
「去年のオレゴンは虚しくて、悲しくて、何の悲しみかもわからなかった。その悲しみが怒りに変わって、この1年間努力をしてきた。でも、やっぱり怒りだけじゃなく、自分自身への許しが必要なんだなと。この大会で初めて気づくことができた。それを気付かせてくれたのは、いろんな支えがあったから。私一人じゃここまで来られなかったので、感謝の気持ちでいっぱいです」
初出場だった2019年ドーハ大会は、いきなり決勝に進んで14位。東京五輪1500メートルは日本人初の8位入賞。「自分でもビックリするビギナーズラック」。結果が出ても中身のある自信にはならず、「すごく怖さが出てきてしまった」。その恐怖を克服した今大会。「本当の意味で世界のトップに仲間入りできたんじゃないかな」。ここまで言えるようになったことが躍進だ。
3大会連続3度目の世界陸上は4本のレースを走破。日本人過去最高位だった1997年アテネ大会8位の弘山晴美と並び、日本人26年ぶり2人目の入賞を手にした。
「パリ五輪は2種目で狙いたい。今度こそ両種目で決勝に残って、自分自身がどんどんレースを動かしていけるような強さを持ってやっていきたい」
アフリカ勢に対抗することを「無理」と言う人がいる。そんな外野の声を振りほどき、戦える位置まできた。涙の世界陸上から1年。「今日は凄く楽しめました」。最後は少しはにかんでいた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)