世界陸上王者を生み続けるエチオピアの秘訣 日本にはいない「貧困脱出の伝説的ロールモデル」
第10回は、第5回に続きエチオピアのスポーツ編集者が登場する。中長距離で多くの実績を残してきた同国。次々と世界で活躍する選手を生んできた土壌には何があるのか。若手選手にとって伝説的ロールモデルの存在が大きいという。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、鉾久 真大)
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第10回
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
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第10回は、第5回に続きエチオピアのスポーツ編集者が登場する。中長距離で多くの実績を残してきた同国。次々と世界で活躍する選手を生んできた土壌には何があるのか。若手選手にとって伝説的ロールモデルの存在が大きいという。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、鉾久 真大)
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夢を追う過程では、やはりハングリー精神が欠かせない。
「ほとんどのアスリートは成功して人生を変えたいと思っているんだ。貧困から抜け出すために走る人が多い。実際にヒーローになる人もたくさんいる。世界的に活躍するアフリカ選手がたくさんいるから、若者たちは彼らのようになりたいんだ。世界的に有名で、知られた存在にね。良い選手が多いのは天気や標高のおかげもあるけど、生活が困難という要因もある」
語ってくれたのは、エチオピアのギルム・セイフ氏(Girum Seifu)。アート、産業、IT、メディアの集合団体「Medemer Africa」でスポーツ編集者を務めるほか、ラジオプロデューサー兼司会者など幅広く活躍している。
東アフリカに位置するエチオピアは、ケニアなどとともに中長距離のメダル常連国。首都アディスアベバの標高は2400メートルと国全体を見ても高地が多い。万全な設備、道路の舗装は十分ではないが、低酸素の中でトレーニングできる環境がある。さらに大きいのは生活が掛かっているということ。
「多くのロールモデルがいるんだ。マラソン、ランニングはいいお金になる。大きな都市のマラソンで勝てば、エチオピアで投資家になれる。誰かが成功しているところを見れば、それが他の人を刺激するんだ。
エチオピアでは毎年、ハイレベルで戦える新しいアスリートが出てくる。1万メートルや5000メートルでね。成功者からのインスピレーション、つまり人生を変え、貧困から抜け出すこと、そしてヒーローになること。それが背景にあると思う」
セイフ氏は、エチオピア最大級の新聞社「アディサドマス」にもスポーツ記事を寄稿。全ての競技をカバーし、選手の努力やアフリカスポーツ界の現状を伝えてきた。
今回、最高のロールモデルに挙げたのが、「皇帝」と呼ばれたハイレ・ゲブレセラシェ氏。男子1万メートルで1999年まで世界陸上4連覇、五輪は00年シドニーで2連覇したレジェンドだ。しかも、マラソンでも世界記録を出した。