「親の暴力に耐えれず…」 17歳で家出、少年院にいたボクサー力石政法の決意「絶対、世界一に」
なぜ世界王者になりたいのか「自慢できる勲章が欲しい」
ただ、ボクサーの道は険しい。強靭なスタミナが求められ、それを養うには走り込みなどが必須。地味な練習を毎日続け、最後に過酷な減量を乗り越えなければならない。中途半端な人間には続けられない競技。その壁を乗り越え、23歳だった2017年7月にプロデビューした。
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しかし、3戦目に坂晃典に2回TKO負けでプロ初黒星。ボクサー人生で「最もしんどかったこと」に挙げる出来事だった。
「自分だけではなく、周りの期待を裏切ってしまって申し訳ないという気持ちが凄く強くて、その時は本気で死のうと思ったくらい絶望的な気持ちになりました。時間とともに乗り越えることができたのもあると思いますが、兄(矢吹正道)も、緑ジムへ移籍してから初戦でKO負けしていて、その後、僕の敗戦の後に世界ランカーと復帰戦をしてKO勝ちしました。
その時に何か大きな引っ掛かりみたいなのが取れて、自分も前向きになれた大きなきっかけでした。あと、小さい頃から親にやらされていたので、その時はボクシングが本当に嫌いで、親からの暴力が一番しんどかったかもしれません(笑)。今は自発的にボクシングに取り組めているので、自分でも、どうしてなのかはよくわからないのですが、ボクシングが好きなんだと思います」
紆余曲折の日々を送りながら目指す世界王座。世界ランクはWBC8位、WBO9位につける。王者にはWBCにオーシャキール・フォスター(米国)、WBOにエマニエル・ナバレッテ(メキシコ)が君臨。軽量級に比べて世界的に競技人口が多く、タイトル挑戦は簡単ではない。
なぜ、世界チャンピオンになりたいのか。力石は胸に秘める原動力を紐解いた。
「スポーツの中でもボクシングは特に結果主義の世界なので、自分が努力してきた証しは一生残る。日本やアジアの王者では緩いんです。本当の実力がなくても、正直、マッチメイクやタイミングでも王者になれる時がありますから。世界はマッチメイクやタイミングはもちろんかなりありますが、少なくとも僕の階級(スーパーフェザー級)は実力がないと絶対になれません。みんなに自慢できる自分の勲章が欲しいんですよね」
人生で大事にしている言葉は「just do it」。早くやれ、とにかくやってみろ、などを意味する。自分を何度も鼓舞してくれた。
「つらい練習や物事をサボりたくなる時、後回しにしたくなることって人間なので絶対あるんですよね。でも、『just do it』っていう言葉を見ると、『ライバル達も必死に練習している。だから自分も今やらなくちゃいけない』という気持ちになっていました」
いよいよゴングが鳴る世界前哨戦。「次の試合を見た方は、僕が世界のベルトを巻いている姿がより具体的に想像できるようになると思います」。強くなりたい――。今は自発的に、心からそう思える。だから今日、リングに上がる。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)