陸上日本選手権で魂の大逃げ 「走る監督」37歳上野裕一郎、教え子に贈る言葉なき叱咤激励
8月のブダペスト世界陸上などの代表選考会を兼ねた陸上・トラック&フィールド種目の日本選手権が1日、大阪・ヤンマースタジアム長居で開幕した。男子5000メートル決勝では、37歳・上野裕一郎(セントポールクラブ)が14分00秒20で25位。立教大陸上競技部の男子駅伝チームを率いる現役監督は、3000メートルまで先頭を走るなど激走した。必死で大逃げに挑戦した姿には、教え子たちへの叱咤激励が詰まっていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
陸上・日本選手権
8月のブダペスト世界陸上などの代表選考会を兼ねた陸上・トラック&フィールド種目の日本選手権が1日、大阪・ヤンマースタジアム長居で開幕した。男子5000メートル決勝では、37歳・上野裕一郎(セントポールクラブ)が14分00秒20で25位。立教大陸上競技部の男子駅伝チームを率いる現役監督は、3000メートルまで先頭を走るなど激走した。必死で大逃げに挑戦した姿には、教え子たちへの叱咤激励が詰まっていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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先生の走りを見ろ。まさしく背中で体現した。
上野は序盤から集団前方についた。先頭にいた2人の外国人選手の後を追う展開。1周目を終えてハッとした。「これじゃ、またいつもと同じだ。何しに日本選手権に来たんだ」。7月で38歳。自分に喝を入れ、大粒の汗を流しながら前に出た。3000メートル地点で先頭に躍り出る。しかし、その後は一気にペースダウンした。
最後は歯を食いしばり、意地のラストスパート。取材にはすぐに応じられない。全力を出し切っていた。
「今、うちのチームに足りないものは積極性。無難に走るようにはなってきたけど、無難では戦えない。上級生はタイムに上限が出始めていますし、下級生も無難に抑えるレースが多い。『監督が示しをつけるレースをしてくるね』と話をしてきた。13分30秒を切って8番狙いだったけど、ここで行かなきゃここに来た意味がないと思った」
名門・佐久長聖高時代に頭角を現し、中央大では4年連続で箱根駅伝の主要区間を走った。実業団時代は2009年日本選手権の1500メートルと5000メートルで優勝。スピードランナーとして名を馳せた。
立教大は1968年以来の箱根駅伝出場を目指し、指揮官として白羽の矢が立ったのが上野だった。2018年12月に同大駅伝チームの監督に就任。一緒に走る指導を貫き、「日本一速い監督」と呼ばれるようになった。今年の箱根駅伝は55年ぶりの出場。総合18位(往路20位、復路16位)だったが、チームは着実に階段を上っている。
迎えた今大会は指導者になって2度目の出場。「ここでしか得られない勉強になることがある」。普段は味わえない緊張感、トップ選手同士の会話、ウォーミングアップの方法、レース展開。自身の調整を進めながら、周囲の選手たちを観察した。全ては教え子に還元するためだ。
肺が破裂しそうになっても足を回した。「ラスト1周を大事に!ってチームでも言っているので」。出し切ったレースは「やっぱり学生たちの見本にならない」と息も絶え絶えに語る。ランナーとして“反面教師”の姿も知ってほしい。
「最後にしっかりまとめれば、それなりに走れるんだよって見せたかった。ちょっと悔しいですね。もうちょっと踏ん張らないと。ちゃんと練習しないとダメですね。練習、ジョギング、ペース走。そういうところを大事にしないといけない。改めて自分も勉強になりました。(序盤に)突っ込める選手は、たぶん落ちるところを抑えればちゃんとやってけるんだぞって。
一つひとつ自分で体感しながら勉強にもなっています。私がしていること、やってほしいと思ってることを積極的に取り入れてもらって、信頼してついてきてもらえればおのずと結果が出る。普段はなかなか恥ずかしくてはっきり伝えることはできないですけど、やっていることは間違いではないので、みんなに信頼してやってもらえれば」