「みんな、村田諒太が好きなんだな」 誠実、ガキ大将…記者を惹きつけた無数の人間味
ボクシングの元WBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太(37歳、帝拳)が28日、都内の会見で現役引退を正式発表した。五輪金メダルからプロで世界王座に就いた唯一の日本人。昨年4月に敗れたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)戦が最後の試合になった。
村田諒太が引退、記者たちに仕事を忘れさせた王座奪還のあの夜
ボクシングの元WBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太(37歳、帝拳)が28日、都内の会見で現役引退を正式発表した。五輪金メダルからプロで世界王座に就いた唯一の日本人。昨年4月に敗れたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)戦が最後の試合になった。
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キャリアのハイライトの一つが、2019年7月のロブ・ブラント(米国)との再戦だ。1200発超のパンチを浴びた完敗から9か月後の王座奪還劇。リングサイドの記者たちも仕事を忘れて狂喜乱舞した背景には、村田の人間味に魅了された記者の姿があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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「みんな、村田諒太が好きなんだな」。あの夜、そう強く思わされた。
下馬評は村田の圧倒的不利だった。打撃戦で迎えた2回52秒。右拳がブラントの顔面を捉えた瞬間、6500人の観客を総立ちにさせた。リングからわずか5メートルの記者席。四方八方から降り注いだ叫び声に耳が痛む。1分間続いた魂の豪打。普段冷静な井上尚弥も、実況席で「おー! 効いた! 効いた!」と叫ばずにはいられなかった。
私の両サイドにいた記者たちは「うおぉー!!」と言葉にならない叫び声を上げ、立ち上がる。2回1分22秒でダウンを先取。速報を打つ手が震えた。この1分後にTKO勝ち。燃え盛る横並びの記者席を見渡すと、ライバル社同士でもハイタッチを交わし、肩を組んで喜びを分かち合っていた。涙を流す人までも。
後にも先にも、他の競技でも見ない異様な光景。控室で新王者に握手を求めるほど興奮した記者もいた。それだけ分が悪かった再戦。ゴロフキン戦の死闘もさることながら、ブラント戦も人を惹きつけるものがあった。
南京都高(現・京都廣学館)、東洋大、帝拳ジム。村田の周りには、常に人の輪ができた。先輩も、後輩も関係ない。取材では質問に対する「答え」「理由」「具体例」の順番で理路整然と話し、最後に記事にできない毒の混じったオチまでつける。トレーナーの誕生日には、ジムの更衣室からサプライズケーキを持って登場した。「人の喜ぶ顔が好きなんでね」。輪の中心から笑顔が広がるのが日常だった。
仲間を大切にし、人としての厚みのあるボクサー。メディアを通せば、紳士的で誠実な印象を強く持たれているが、実はそれだけじゃない。