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Jリーガーが農業で地域貢献 解散危機あった福島ユナイテッドFC、震災復興で生まれた絆

ホームゲームが行われる、とうほう・みんなのスタジアム。「つなぐサッカー」を極めるべく芝の張替えも終わった【写真:宇都宮徹壱】
ホームゲームが行われる、とうほう・みんなのスタジアム。「つなぐサッカー」を極めるべく芝の張替えも終わった【写真:宇都宮徹壱】

「昇格させること」から「街を盛り上げていくこと」へ

 農業を足がかりとしながら、時間をかけて地域から認められる存在となっていくなか、福島にとって気になる存在が県内に出現する。

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 2015年、株式会社ドームの子会社として新たなスタートを切った、いわきFC。この時は福島県3部で、J3の福島とはカテゴリーが6つ離れていた。それが毎年のように間合いを詰められ、2022年にはついにJ3に昇格して「福島ダービー」が実現する。

「向こうは県リーグ時代から、ウチより財政規模が上で、成り立ちも戦略もまったく違う。やっているサッカーも、向こうはフィジカル重視ですが、こっちはしっかりつなぐサッカー。まったく真逆ですが、県民の人たちには選択肢が多いほうがいいんじゃないですか? 我々は選手を育てながら、街づくりにも貢献していきたいんですよ」

 福島ダービーが実現した2022年、竹鼻はクラブを離れて自身の会社を立ち上げ、その後はアドバイザーというポジションから福島のトップチームを支えている。福島以外にも、WEリーグやFリーグ、さらには地域リーグのクラブともアドバイザリー契約を結ぶ一方、最近は行政から町おこしの相談も受けているという。

「なぜクラブから離れたかというと、チームが結果を出せなければ、監督と一緒にGMもいなくなるじゃないですか。その後、僕を受け入れてくれるクラブはあったとしても、下のカテゴリーだと雇うのは難しいと思います。だったら僕自身が独立して、それぞれのクラブの困っているところを業務委託してもらうほうが、お互いにとってもいいですよね。それに僕自身、福島の復興には一生、関わっていきたいですし」

 若きGMだった頃、眼の前の試合に勝利してカテゴリーを上げていくことこそが、竹鼻が自らに課してきたミッションだった。しかし福島に腰を据えるようになって、その考え方は次第に変わっていったという。

「震災直後の2012年から、サッカーだけでなく街づくりや地域おこしにも関わってきて、気がついたらサッカーよりもそっちのほうが軸足になっていたんです。農業を含めた食とか、音楽やイベント関係とか、そっち方面の友だちも増えていった。それで僕自身も、活動領域が広がったように思います。やっぱり街を盛り上げていかないと、サッカーも盛り上がらない。それは福島に11年いて、あらためて実感したことですね」

 当連載は、Jリーグの30年の歴史を「地域創生」という視点から取材を続けている。今回の福島の場合、いわきのように街の風景が劇的に変わったわけではない。それでもJクラブができたことで、県外から訪れた人材と地元の人々との間に交流が生まれ、新たなムーブメントが生まれようとしている。

 決して派手さはないけれど、これもまたJリーグが地域にもたらした、興味深い事例の一つと言えるのではないだろうか。(文中敬称略)

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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