井上尚弥に打たれ続けた言葉のジャブ 「逸材」の従兄・浩樹が30歳で現役復帰するまで
大橋会長「天才。井上家で一番才能があるのは浩樹」
最後のひと押しはアニメだった。昨年1月公開の劇場版「BanG Dream! ぽっぴん’どりーむ!」。バンドを組む女の子たちが海外フェスの夢を追いかける姿に、気持ちを抑え続けた蓋が吹っ飛んだ。「自分は夢を守れているのか。いてもたってもいられなかった」。レイトショーから帰宅後、すぐに夜道をロードワーク。翌日、尚弥に決意を告げると、「アニメを見て復帰って、アホか」と突っ込まれた。
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覚悟を固め、再び向き合ったボクシング。1年半のブランクは大きかった。スタミナがない。足の筋力低下により、パンチを打つと体がブレてしまう。過酷と知られる元世界3階級制覇王者・八重樫東氏のトレーニングに弟子入り。筋力アップに励んだ。
「今まで以上の下半身を手に入れた。自分でもどうなるか怖いくらい」。サウスポーだが、右利き。左手の感覚を磨くため、箸、ペンなども左を使い、自分は左利きだと自分に言い聞かせた。
以前は怪我に悩まされ、万全の状態で試合に臨めないことが多々あった。引退後に怪我の詳細をツイッターで明かすと、面識のない整体師から「治せるかも」とメッセージ。身を預けると痛みが消え、今も助けをもらう。「恩人です」。休んでいた間に左手の怪我も完治。一度リングから離れたからこそ、得たものが多かった。
「怪我をしそうになっても、体のケアをしてくれる。だから、逆に体の心配をしなくなった。気にせず練習できるようになったのは大きい。負けてから練習の質、姿勢も変わった。今回の試合は今までで一番練習できたと思います。心の整理もできたし、凄く有意義な時間だった」
復帰までの過程を知る陣営の大橋秀行会長も目を見張る。
「今まで怪我があったので(練習内容が)酷かったんです。今回の練習は凄かった。天才というのはこういうことなのか、と。井上家で一番才能があるのは浩樹です」
この日はリングサイドから尚弥、拓真も嬉しそうに応援。前日に「全力でいける」と宣言した通り、早々にぶっ飛ばした。「今後のテーマは『変われる強さ、変わらぬ想い』。かっこいいっすよね」。人気ゲーム「テイルズ・オブ・エターニア」のキャッチコピーを胸に秘めた。
「やるからには世界チャンピオンです。そこを目指さないとダメでしょ」
厳しい道のりだからやらない、そんな選択肢は井上一族の人生にはない。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)