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国枝慎吾に引っ掛かった悪気のない言葉 「テニスを車いすでやって偉いね」からの闘い

都内で引退会見を行った国枝慎吾【写真:中戸川知世】
都内で引退会見を行った国枝慎吾【写真:中戸川知世】

ラケットに「オレは最強だ!」のテープ、剥がそうと迷った日「でも、外せなかった」

 相手、自分、世間の目線が闘う対象になった。スポーツとして感動、興奮を与えたい。「こだわりは相当強く持ちながらプレーしていた」。だから、勝利を目指した。

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 06年、ラケットに「オレは最強だ!」と書いたテープを貼った。折れそうな心を奮い立たせるメンタル術。言葉を証明するように世界ランク1位に到達し、07年には車いすテニス史上初の「年間グランドスラム(当時の4大大会制覇)」を成し遂げた。

 08年北京パラリンピックでシングルス制覇。「車いすプレーヤーになりたいという夢を持ってもらいたい」。次世代への想いを背負い、09年、日本の車いすテニス選手初のプロ転向を決めた。

 心・技・体を兼ね備えた世界的アスリート。だが、一人で戦ってきたとは思わない。右肘の手術明けで臨んだ16年リオパラリンピック。「金メダルを獲ります」と宣言した一方、妻・愛さんには弱音を吐きまくった。「もう無理だな」「試合に間に合わない」「もうプレーできないな」「引退かな」。全てを受け止めてくれた。

「僕も相当追い込まれていた。どんなに自分が傷を負っていても、そこで弱音を言ってしまうとプレーに出てしまう。だから、それ(弱音)を言えない。そういった言葉を吐き出せる場所があるのは助けになった。大会にも帯同してくれる。テニスって世界各地を周って、割と孤独なんです。ホテルに帰れば、妻がいるだけでアットホームな雰囲気が流れる。それだけでオンとオフをはっきり切り替えることができる」

 リオはシングルス3連覇を逃し、挫折を味わった。ラケットの「オレは最強だ!」が崩れた瞬間だ。「テープを外そうか」。代名詞を捨てる寸前まで悩んだ。

「でも、外せなかったんです、最後まで。やっぱりそれを外した瞬間、もう戻って来られないと感じた。2006年から2023年まで貼り続けました。何度も、何度も、弱気になる部分はあります。その中でも『オレは最強だ!』と断言する。そうやっていろんな弱気の虫を外に飛ばしていけた」

 強い言葉の裏には積み重ねがある。日々の反復練習でぶつかる壁。「こんな集中力で本当にオレは最強だと言い切れるの?」。自問自答を繰り返し、練習の質を上げる。自分の言葉に責任を持った。

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