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メッシから育成年代の選手が学ぶべきこと 世界一に到達させた技術以外の“本当の凄さ”

様々な欲望をはねのけサッカーだけに専念

 しかも、13歳で生まれ故郷のアルゼンチンを遠く離れ、スペイン・バルセロナでの生活だった。母親は同伴だったが、一時、帰国を余儀なくされていた。どれだけ心細かったか。異国で自分と対峙し続けるのは、とんでもない精神的タフさが求められる。

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 まず、様々な欲望に目移りする。13歳前後は、そんな年ごろである。それ故、必然として12歳以下で国別代表に入っても、いつの間にか消える選手が少なくない。名門クラブの下部組織選手には、欲望が渦のようになって押し寄せる。例えば「もっといい契約がある」と代理人に持ちかけられ、「私と付き合わない?」と女の子に迫られ、「こんな楽しい遊びがあるよ」と誘う友人もいる。寂しく、辛い時期、楽な道に逃げるのは簡単だ。

 メッシはすべてをはねのけ、固い意志で、サッカーだけに専念してきた。

 ガールフレンドはアルゼンチンで、5歳の時に知り合った幼馴染だった。13歳で旅立ってからも頻繁に連絡は取り合っていた。やがて恋人関係になり、3人の息子をもうけた後、2017年に正式に結婚している。

 この一例だけでも、誠実な性格が透けて見える。欲望に振り回されず、サッカーに打ち込む。それができない限り、世界最高の領域には到達できないのだ。

「レオ(メッシの愛称)は競争環境のなかで、その実力を高めていくタイプの選手だった。彼は闘い続けていたほうがいい。休むことのほうがストレスになるんだ」

 FCバルセロナを率いたジョセップ・グアルディオラ(現在はマンチェスター・シティ監督)は、かつてそう評していた。

「無事是名馬」

 その丈夫さは、メッシがメッシたる所以だろう。

 試合をすることで、疲労するどころか、力を得られる。実戦のなかで技を改善し、相手との紙一重の勝負で成長する。当然、激しいチャージも浴びるが、あらゆるダメージを予測し、最小限にできる。そのおかげで、メッシはほとんど怪我をしない。結果的にプレー稼働率は誰よりも高く、多くの経験を重ねているからこそ、誰よりも強いのだ。

 ボールを蹴るたびに成長する姿は、ヒーロー漫画の主人公のようである。挫折も挫折と捉えない。行くべき道をまっしぐらに進み続ける。そこには、やはり強固な意志を感じさせる。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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