「リングで礼儀を教育した」 舐めた若手に喝、37歳ボクサーが怒りを隠した引退試合
昨年夏に「外傷性白内障」、左目は4割ほどしか見えず
夢を追い続けたボクシング人生だった。2004年に18歳でプロデビュー。東洋太平洋フェザー級王座に輝き、世界ランク1位に駆け上がった。16年、米ラスベガスで念願の世界初挑戦。WBO世界フェザー級王者オスカル・バルデス(メキシコ)に7回TKO負けを喫したが、メインイベントはマニー・パッキャオ(フィリピン)の復帰戦。大型興行のセミファイナルで世界最高峰のリングに立った。
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ファイトマネーはデビュー戦以来、身体知的障害者団体や福祉施設などに寄付。介護士としての稼ぎで生計を立て、いつしか「介護士ボクサー」と呼ばれるようになった。心優しく、後輩たちに慕われる人柄。再び世界ランク1位まで這い上がったが、世界挑戦の機会が訪れることはなかった。
「夢を追っかけていく中で夢が叶うことはなかった。まだ体はできるけど、気持ちがついてこない。心・技・体がそろわないので幕引きかな」
昨年夏には左目に「外傷性白内障」を患い、4割ほどしか見えない状態。試合直後のリングで引退式を行い、19年前にプロデビューした場所で10カウントを聞いた。
リングで幼い長男を抱き、妻に感謝を告げた。「本当に……」と語り出すと、男泣きした。
「この10年間、嫁さんと出会って、自分の人生の大半をボクシングに費やしてしまって本当に申し訳なかった。コロナ禍で試合ができない中でも子どもを授かってくれて、本当に嫁には感謝しかない。いつも自分勝手でむちゃくちゃなことをしているんですけど、それでも何一つ文句を言わず、ずっと背中を押してくれたことに本当に感謝しています。ありがとうございました」
“口”で強さを誇示する選手が目立った興行。一方、物言わぬベテランの姿が記憶に残った。これから殴り合う選手同士の間に火花が散らなければ、面白くないと思う人もいる。試合前の挑発は海外でも主流。もはやそれぞれの好みかもしれないが、個人的には拳で語る方がシンプルでカッコいい。
「これから何かに迷った後輩がいれば、背中を押してあげる先輩でありたい。いちボクサー・大沢宏晋としての人生はここで終わりますが、人間・大沢宏晋としての舞台はまだまだ続きます。また叱咤激励よろしくお願いします」
グラブを吊るす最後まで輝きを放っていた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)