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走り続ける理由がほしい 私が文章で表現する世界陸上の虚しさ「だから涙が出たのだ」【田中希実の考えごと】

オレゴン世界陸上女子1500メートル予選で先頭を走る田中【写真:Getty Images】
オレゴン世界陸上女子1500メートル予選で先頭を走る田中【写真:Getty Images】

自己満足。傷の舐め合い。全部嫌いだ。

 気持ちを整理するために、大会期間中のことを物語調に書き留め、何があっても自分は自分として走り続けるしかないと結論づけたりもした。

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 しかし、虚しさは埋まらなかった。立ち止まりたくないし、走り続けるしかないのに、そうする意味が見出せなくなったから。涙が出たのだ。

 結末のない物語を虚しく感じてしまう。やっぱり結果にとらわれている。だから苦しい。

 世界に挑んで跳ね返されたとしても、支えてくれた仲間や、努力した日々は消えない。自分では果たせなかったことも、次世代に引き継がれていく。でも、それだと納得できない。どうしても、自分一人で完結させたいと思ってしまう。

 過程で生まれる物語は、自分が一番蔑ろにしている。頑張ったじゃないか。認めていいじゃないか。そう思うこと自体が痛々しく虚しいことだと思ってしまう。自己満足。傷の舐め合い。全部嫌いだ。全部嫌だ。

 でも、頑張りを認めてくれる周囲の言葉や、素直に自信を持てる自分に憧れてもいる。相反する自分に、もううんざりしてしまった。楽しんで走りたいですと言いながら、またイラつきながらスタートラインに着くのだ。

 とはいえ、どれだけ打ちのめされても、立ち止まる気はさらさらないので、走り続ける理由がほしい。結果を求めて前を向き、足を出し、その軌跡に誇りを持つために走る。綺麗事かもしれないが、そう考えることでしか、走り続けられない。

 ただ、過程を正当化するつもりもない。3種目に挑戦したことには、結果が出ない以上誇りは持てない。ただ、3種目に挑戦した上で結果を出したかったので、種目を絞ればよかったという後悔はもっとない。

 今後結果を出せれば、世界陸上や、過程の全てに誇りを持つことができる。結局、結果ありきの前提なのが情けないが、誇りを持つことはなくても、自負は捨てていない。

 きっとこれからも、過程を大事にしたいと嘯(うそぶ)きながら、目を血走らせて結果を求め続けるだろう。

 しかし、みんないつまでも幸せに暮らしました、というのが多分最高の結末なのだ。結果が全てを左右すると思うのに、やっぱり結果は全てじゃないと思う。

 結果に固執しながらも、周囲や自分を守れる方法は、まだ分からない。

 この続き、どうなるか。

 オープンエンドも、本当は嫌いだ。

【田中希実のオレゴン世界陸上】
7月15日(初日):1500m予選(2組7着)
16日(第2日):1500m準決勝(2組6着)
17日(第3日):レースなし
18日(第4日):レースなし
19日(第5日):レースなし
20日(第6日):5000m予選(2組9着)
21日(第7日):800m予選(6組7着)
22日(第8日):レースなし
23日(第9日):5000m決勝(12位)
24日(第10日):レースなし

(田中希実 / Nozomi Tanaka)

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田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

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