1月3日早朝、芦ノ湖で箱根駅伝ランナー観察 実は“走りオタク”内川聖一の新たな挑戦
オフに挑戦していたラン検定、“打つ人”が走りを学ぶ理由とは
面白いものに「ラン検定」というものがある。
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一般社団法人「学舎」が主催し、「ラン(走り)」の正しいフォームから身体の構造、トレーニング方法など専門的な知識を問われる試験。元オリンピック選手の陸上コーチや理学療法士なども受験し、高度な理解を求められる検定でオフに1級の認定を受けたという。
しかし、野球ファンなら自然と浮かぶ疑問。内川聖一って“打つ人”じゃないのか。なぜ“打つ人”が走りを学ぶ必要があるのか。
「僕自身、いつか選手として終わりが必ず来る。ただプレーするだけの野球人生ではなく、例えば自分が感じてきたこと、経験してきたことをこれから育っていく人に伝えたい希望も持っている。それが、野球のことだけでいいのか。正直、『内川=走り』のイメージはない。でも、知識を持っておくことは、自分にとって間違いなくプラスになる。自分が知らないことより、自分が経験したものを教えられた方が、幅も広がるんじゃないかという気持ちもあって受験しました」
野球人として未来を見据えた挑戦。実は、内川は「走り」に造詣が深い。いわば“オタク”だ。
35歳だった2017年シーズン後のオフ。陸上の元ハードル選手で、プロスプリントコーチの秋本真吾氏に指導を受けた。理由は塁間のタイム短縮のほか、肉離れ予防や疲労軽減にもあったが、一番は「自分の知らないことがあるのが嫌だった」という内川らしいもの。
走りに、持ち前の好奇心がかき立てられた。どっぷりとハマり、貪欲に知識を求め、あらゆるシューズを試用。「野球選手で一番アップシューズを持っている。10足、20足のレベルじゃない」と自負し、陸上界で厚底シューズが流行った時にはNIKEの「ヴェイパーフライ」をチームの12分間走練習で試した。新しい感覚を求め、サッカー用スパイクで試合に出たこともある。ある年は1月3日の早朝に芦ノ湖に出向き、箱根駅伝を走る学生ランナーを沿道から動画で撮影してフォームを研究した。
最初は143試合の長丁場を戦う身体の負担を減らし、0.1秒でも塁間のタイムを削り、今までだったらアウトになっていたゴロをセーフにすることが目的だった。しかし、異なるスポーツから結果に向かうプロセスの奥深さを学んだことの方が価値のあるものだった。
「求めるのは確かに速さや疲労軽減の“結果”ですが、結果だけに着目して話をするのは違う気がしています。走りの世界って、とんでもないことがいっぱいあるんです。結果を求めて始めたものが、結果が出る前段階に目が向くようになった。陸上選手が100メートル0.01秒を縮めるためにこんなアプローチをしているのか、凄えなって。結果そのものより、走りが良くなるためにこれだけの方法があるんだという過程を学んだ方が大きかった」
今回のラン検定についても、検定事業に携わっていた秋本氏から聞かされた。「その瞬間、即やらせてほしいと言いました」と飛びついた。「ラッキーです、そんないいものがあるのかって。目の前に、餌をぶら下げられたみたいなもんですよ」。実際に検定を通じて学び、得ることも多かったという。
「検定自体が、感覚の話だけじゃない。これからアスリートとしてもう1段階上に行くために、トレーニングの量や期間など、普通にスポーツ選手をやっているだけじゃ知らないことだらけ。同じ物事も一つの方向ではなく、逆からも見られた方がいい。それは教えるにしても、いろんな方面からアドバイスできる方法があるのと一緒。正直、言って全部追いつけてないです。イメージしたら永遠に膨らむんですよ、走りの世界は。学ぼうと思ったら、1日24時間じゃ足りないくらいです」
この思考の深さがあるから、不惑を迎える今年も現役選手としてユニホームを着ることができる。