スペインの育成が“結果至上主義”にならない理由 日本と決定的に異なる才能発掘の構造
選手を育てた対価で次の世代を支える
「アンティグオコはいわばショーウィンドーのようなクラブですね。すぐに手放すよりも、じっくり育てるのが自分たちのやり方です。シャビ(アロンソ)も9歳から18歳までをここで過ごしました」
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そう説明していたのは、シャビ・アロンソが10代の時、指導に当たったイニゴ・ラレという人物だった。
「シャビ(・アロンソ)はいつもボールを蹴っていて。練習が終わり、僕がシャワーを浴びて照明を消そうとしても、兄やチームメートを誘っていつまでもボールを蹴っていました。毎回だったから、たまに勘弁してくれと思うこともありましたよ(笑)。私たちはボールを大事に簡単に蹴らず、つなげるのがフィロソフィです。結果優先でないから、じっくり育てられます。だから遅咲きの選手も多いのが特徴で、基本を叩き込まれているから長くプレーできるんですよ。サッカーを知っている、サッカーが上手い選手を育てています」
バスクサッカー界の重鎮と言えるレアル・ソシエダとアスレティック・ビルバオは各々100以上のクラブと提携し、育成網を張り巡らせているが、なかでもアンティグオコは特別な存在だ。
レアル・ソシエダ時代の年間契約料は250万ユーロ(約3億5000万円)だった。アンティグオコの選手がデビューした場合、6000ユーロ(約84万円)、10試合出場で1万2000ユーロ(約168万円)、30試合出場で3万ユーロ(約420万円)など、条件は細部にわたっている。さらに、入団したクラブから他のクラブへの移籍金は10%で……。
アンティグオコは「育成」のプロフェッショナルと言える。しっかりと選手を育て、対価を得る。その資金で次の世代を支える。
結果には囚われず、結果を出せるメカニズムだ。
(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)