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スペインの育成が“結果至上主義”にならない理由 日本と決定的に異なる才能発掘の構造

張り巡らされたスペインの育成網

 では、育成年代で日本を凌駕し、素晴らしいサッカー選手を次々に生み出すスペインにおいては、どんなアプローチをしているのか。

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 スペインでは、育成年代でのブランド化を許さない。いや、構造的に結果至上主義には結び付かないのだ。

 まず、学校の部活は存在しない。各地域のサッカークラブは、その多くが有力クラブと提携契約を結んでいる。頭角を現した選手が出てきたら、そこに選手を送り込む。対価として契約料(もしくは施設運営や医療設備などのハード面の提供など)と、プロ契約した時などの育成料などが支払われる仕組みだ。

 クラブ同士で意見交換が交わされ、網の目が張り巡らされる。つまり、一つの共通理解のなかで、戦略的な育成が行われる。ユースの大会で、結果を出せばいいわけではない。

 子供たちは試合に出なくとも、常にその力量をチェックされている。関係者の間で名声が轟けば、ビッグクラブが直接、興味を示すこともある。そのチームの結果に、必ずしも左右されない。プレーそのものを磨く必要があるのだ。

 筆者は数年前、スペイン・バスク地方のサンセバスチャン郊外にあるアンティグオコの練習場を訪れた。山に囲まれた、ひっそりとした場所にあった。隠れた修業の場というのか。朝9時から昼を挟んで夕方まで各カテゴリーの試合が順次行われ、スタンドではスカウトたちが目を光らせていた。

 アンティグオコは、18歳以上のトップチームを持たない。「育成」に特化したアカデミーである。歴史上、レアル・ソシエダ、アスレティック・ビルバオと交互に提携契約を結び、有力選手を輩出してきた。

“卒業生”は枚挙にいとまがない。アーセナルを率いるミケル・アルテタ、リバプール、レアル・マドリード、バイエルン・ミュンヘンで数々の栄光に浴したシャビ・アロンソ、スペイン代表としてワールドカップに出場したハビエル・デ・ペドロ、2度のヨーロッパリーグ得点王でバスク伝説のストライカー、アリツ・アドゥリス、ビルバオの主将で今や若き名将の誉れも高いアンドニ・イラオラなどだ。

 アンティグオコは一言で言うと、「虎の穴」である。ユース年代の子供たちを、目先の結果ではなくサッカー選手として鍛え上げる。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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