「誰かに負けたくない」より大切なこと 小平奈緒が思う、スポーツマンシップのカタチ
“結果を追い求めるだけがスポーツじゃない”、価値観の原点となった幼少期の体験
他競技を見て、惹かれるのは選手の感性という。「いろんな人の人生観を言葉として聞いたり、触れたりすることによって、自分が持つ先入観みたいなものがなくなるので、すごく楽しいなと思うんです」。陸上のハンマー投げ・室伏広治氏、フィギュアスケートの羽生結弦という五輪金メダリストの名前を例に挙げ、「独特の人生観、世界観を持っていると思います」と言った。
【特集】「与えられるものは有限、求めるものは無限」 金メダルの裏にあった“覚悟” / スピードスケート 小平奈緒さんインタビュー(GROWINGへ)
こうして聞いていると、言葉の端々に浮かぶのは、“結果を追い求めるだけがスポーツじゃない”という価値観だ。その原点は、どこにあるのか。時計の針を幼少期まで巻き戻すと、見えてきた。
子供の頃を「ちょっと恥ずかしがり屋で、いつも父親の後ろに隠れているような子だった」と振り返る。そんな時、スケートに一番の楽しみを感じていたのは「仲間、同志が増えていくことだった」という。中学生で初めて出場した全国大会のこと、父・安彦さんに「まずは友達を作って来いよ」と言って送り出された。
「普通なら『成績を取ってこいよ』と応援されると思うんですけど……。だから、その時、私にはすごく不思議だった。でも、恥ずかしがり屋なりに北海道とか、いろんな地域の選手に声をかけて、友達になって、そこから世界がすごく広がっていったかなと思います」
結果を競う以上に人と人をつなげてくれるスポーツのおもしろさ。それが、ちょっぴりシャイだった未来の金メダリストにとって、どれだけ毎日を明るくしてくれたことか。
「リンクに行って何が楽しいかって、友達に会えるからうれしいということ。ただ滑ることだけが楽しいわけじゃない。みんなと滑るから楽しいなと思ったり、地域のおじさん、おばさんに上手だねって褒められたりするからリンクに行くのが楽しみになる。そういうところから今の子供たちにもスケートが好きになっていってほしいと思います」
では、今、スケートをやっていて楽しい瞬間は――。そう問うと、意外にも競技ではない場面を挙げた。
「オリンピックをどう感じたかを多く感想を頂いて、その人たちのものの見方を知るのが今、すごく楽しいです。私が言葉を発することによって、いろんな人が自分の人生に当てはめて、考えを巡らせてくれて、その考えをまた私が知ることによって、いろんな人の人生を見ているような感じがして」
人の考えに触れることが好きなのだろう。“氷上の哲学者”は「そうですね、すごく楽しいです」と笑った。