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日韓W杯が大分に与えた影響 西川周作ら日本代表を輩出、育成環境を変えた無形の財産

「育成のトリニータ」の礎を築いた元韓国代表の皇甫官氏【写真:宇都宮徹壱】
「育成のトリニータ」の礎を築いた元韓国代表の皇甫官氏【写真:宇都宮徹壱】

日韓W杯の10年後に実現した教え子たちとの対戦

 オンラインでのインタビューに応じた皇甫は、U-18立ち上げの苦労をこう振り返る。

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「いい選手を集めるためには、まず学校と練習場の問題を解決しなければならなかったですね。学校については東明高校が受け入れてくれて、練習場については海沿いにある大分ガスの土地を借りて整備しました。社長には『必ず世界的な選手を育てますから』とお願いしましたよ(笑)」

 選手集めには、県内外を問わず自ら足を運び、その目で確かめた。結果、2期生として獲得したのが、西川や梅崎である。

「西川を見つけたのは宇佐市で、彼が中学2年の時でしたね。セットプレーも任されるようなキックの精度が素晴らしかったです。梅崎は長崎の出身で、身体は小さかったんだけど技術は高かったし、当時からプロになろうという高い目標を持っていました。実は2人とも、国見高校の小嶺(忠敏)先生が目をつけていたんですよ。日本の指導者だったら遠慮していたかもしれないですが、私は外国人でしたから(笑)。もちろん、あとで小嶺先生には、きちんと挨拶に伺いましたよ」

 大分でのW杯は、6月10日のチュニジアVSベルギー、13日のメキシコVSイタリア、そして16日のスウェーデンVSセネガル(ラウンド16)。たった3試合を開催しただけで、開催都市にサッカー文化が定着し、世界を目指す子供たちが出てくるものなのだろうか――。そんな私の疑問に対する、皇甫の答えはこうだ。

「ワールドカップのインパクトって、試合数だけで測れるものではないですよ。開催の決定から準備、海外からのチームやファンの受け入れ、そして大会後のレガシー、いろいろあるわけです。そういったものに触れることで、子供たちが受けた影響は大人以上だったと思います。何しろ地元にいながらにして、世界を意識することができたんですから。日本代表になるような選手が、大分から何人も出てきた理由は、そこにあったと思います」

 大分で指導していた頃、よく皇甫は少年たちにこう語っていたそうだ。「いつか日の丸をつけてプレーしてほしい。そして世界大会で韓国と対戦した時、反対側のベンチには私が座っているかもしれないよ」と。その夢は、地元開催のW杯から10年後の2012年に実現する。日韓戦となったロンドン五輪の3位決定戦。日の丸を付けてピッチに立つ清武や東に、皇甫は韓国代表の技術委員長として向き合っていた。

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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