「日本の恥」と抗議殺到 劣悪だった埼スタの芝、日韓W杯へ一変させた裏方の奮闘
良好な芝に一変も生育不良の原因はいまだ不明
原因不明の一大事だったが、日本協会の助言通りに管理し、芝の養生に専心。根の長さと強度を毎日測定していると、日増しに根が伸びていることを確認できた。4月16日に3度目の視察に訪れた日本協会の高田委員長は、「はがれる箇所も一部あるが、飛躍的に改善した。いい状態でワールドカップを迎えられそうだ。今後はレッズの練習などで週に数回使ってもらい、適度な刺激を与えてほしい」と提言し、森専務理事も「張り替えの心配はない」とひと息ついた。
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購入した張り替え用の芝が気になるが、これは埼玉スタジアム第2グラウンドに敷き詰められた。
船越さんは20年以上経過した今でも、芝の根付きが遅れた原因は誰にも分からないとした上で、「でき上がったグラウンドの管理はしてきたが、芝を育てることから始めた経験者がいなかったので難しかったと思う。危機的な状況に陥ったが、特別な処置をしたわけではなく、育成を待っただけ。養生と時間が必要だったんでしょうね」とうなずいた。
02年6月2日、良好な芝に一変した埼玉スタジアムはイングランド-スウェーデンの好カードで開幕。この2日後には日本代表がベルギーと対戦し、2-2で引き分けW杯で初の勝ち点を手に入れた。
先発した小野はイタリア代表戦のピッチと比較し「前日の公式練習から、あの時とは全然違ってプレーしやすかった。本番では大勢のお客さんが来て、素晴らしい環境の中で楽しくやれた」と振り返る。
06年W杯ドイツ大会アジア予選。小野は第5中足骨骨折など相次ぐ怪我の影響で、12試合中5試合にしか出場していない。埼玉スタジアムでの唯一の試合が、7-0で大勝した04年6月9日のインドとの1次予選第3戦だ。「お客さんとの距離が近くて盛り上がりを感じた。芝のコンディションも最高で、期待に応えようと気持ちが高ぶった。あれだけのスタジアムはなかなかありません、財産ですよね」。複数の海外クラブに所属し、たくさんの競技場でプレーしてきた小野がこう感心した。
05、09、13、16年にはJリーグのベストピッチ賞に4度輝いた。
現在、浦和レッズが運営する地域スポーツクラブ、レッズランド総支配人の船越さんは「メディアはあれだけこき下ろしてきたのに、改善された芝に一切触れませんでしたね」と笑い、「私も芝のことは忘れ、イングランドサポーターの地響きのような野太い声の合唱と声援、そんな異次元空間に浸っていました」と懐かしんだ。
W杯開幕とともに“埼スタの芝狂騒曲”は、すっかり終息していた。
(河野 正 / Tadashi Kawano)