鈴木隆行、W杯ベルギー戦秘話 “つま先弾”導くブラジルでの涙と「眠れなかった」前夜
リオのビーチに3、4時間座って涙を流した日
「毎日、砂浜を6キロ走る」
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誰かに言われて始めたことではない。自分で決めて、雨の日だろうが何だろうが、自宅に近いビーチの砂浜を毎日走ることにした。
「小さい頃から、自分で1回決めたものを破ったことないんです。もし続けなかったら、今までやってきたことがすべて台無しになる。そう思うと絶対に行かなきゃいけなくなる。だって自分のアイデンティティがなくなってしまうわけだから。でも1人だから、誰かから“行ってこい”なんて言われない。サッカーのことで落ち込んで、行きたくないなって走り出せなかったこともある。それでも夜12時過ぎに外に出てみたら、結局は走り始めるんです」
ある日、本当に走れないかもしれないと思ったことがあった。
こんなこと続けて、なんの意味があんだよ――。
いつも打ち負かしていたはずの自分のもう一つの声のほうが、自分の心を支配していた。気持ちがどうしても追いついていかなかった。
それでもネガティブな感情のまま彼は家を出ることにした。走れば勝手にスイッチが入るのだが、それもない。
3キロの折り返し地点のところで砂浜に座った。なぜか涙が流れた。3時間も4時間も、そこにいて海と空を眺めた。すると切り替えられていた自分に気づいた。
「よし、もう帰ろう」
誰も見ていないし、誰かに決められたことでもない。
自分との約束だからこそ意味がある。あれほど重かった足取りは、びっくりするほど軽くなっていた。
「適当に経験を積むんじゃダメなんです。自分のやれることをしっかりやる、挫けずにやり切る。人間的な成長がないと、結果も伴わないとずっと思ってきたなかで、ブラジルに行って人間的にもこんなに成長できるんだと思えた。それは自分にとって、忘れられない経験になったんです」
2度目の挑戦となったCFZから鹿島、川崎フロンターレを経由して2000年シーズン途中にまたも鹿島に舞い戻る。シドニー五輪に1つ年下の柳沢敦、平瀬智行のチームメートが参加したことでチャンスが訪れ、ゴールを量産してレギュラーのポジションを奪い取った。