「暴力」で人は育たない 日本に未だ残る理不尽な指導が、スペインで成立しない理由
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回は秀岳館高校サッカー部で起こった暴力問題から、封建的な日本の部活とスペイン育成年代で異なる選手との関係性、そして指導者に求められる資質について迫っている。
連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:指導者の暴力で起きる負の連鎖
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回は秀岳館高校サッカー部で起こった暴力問題から、封建的な日本の部活とスペイン育成年代で異なる選手との関係性、そして指導者に求められる資質について迫っている。
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熊本県八代市の秀岳館高校サッカー部の不祥事は、前代未聞だった。
今年4月、部員200人以上の強豪サッカー部で、暴行事件が発覚した。30代コーチが3年生の男子部員を殴り、蹴る動画がSNSで拡散。他の部員の前で、大人が一方的に暴力を振るっている姿はまがまがしかった。「そのような撮影行為が行えるのは常態化しているからでは?」と案じられた。
しかし、事実はもっと重かった。
動画拡散の2日後、複数の男子部員たちが直立不動でカメラの前に立って、動画を撮影し、それが再びSNSに流れ出た。その中で暴行を受けた部員は未成年にもかかわらず顔を出し、暴行に至った経緯を説明、謝罪したが、酷い違和感だった。
そこから事件は急展開した。
同高校の段原一詞監督はテレビ出演し、「謝罪動画は部員たちが自発的に撮った」と説明し、幕引きを図った。しかし、すぐにこのウソがばれる。段原監督がこの撮影に立ち会い、撮り直しまでさせていたことまで発覚した。
「被害者はオレ」
部内ミーティングでは、部員たちを恫喝するような調子だったという。
これは極端な例かもしれない。
しかし封建的体制は、こうした危険を孕む。1人のリーダーの人格や掌握力が組織全体に強く影響するだけに、リーダーに人間的素質がない場合、ガバナンスがきかなくなり、思い切り歪む。結果、様々な形の暴力も生むのだ。
20世紀の部活では、その形の暴力が横行していた。リーダーとなるべき先生や監督が、「虫の居どころが悪いだけ」で選手に罰として長距離を走らせるのはマシで、長時間にわたって正座をさせたり、竹刀で殴られたり、理不尽極まりなかった。練習試合で無様な負け方をした後、選手たちを一列に並べて次から次に殴る指導者もいた。
そうした指導者の暴力が常態化すると、今度は先輩が後輩をこき使い、憂さ晴らしのように体罰をするようになった。まさにトップダウンの連鎖だ。