「次の久保建英」を生み出せる? 型に“はめられない”育成、名門に見る成功の極意とは
試行錯誤を経てバルサに誕生した1人の天才
ラ・マシアはそうした選手を、1980年代末にヨハン・クライフが監督として着任して以来、ずっと育ててきた。ミカエル・ラウドルップ、フリスト・ストイチコフ、ルイス・フィーゴなど外国人選手が担当してきたポジションを、自前で育成。なかなか上手くいかなかったが、20年近い試行錯誤を経て、ようやく現れたのがメッシだったわけだ。
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クラブとして心血を注いできた育成が実ったように、メッシはスーパーな選手になっていった。信じられない突破力と独創的なコンビネーションと圧倒的な得点能力で、在籍した昨シーズンまで数多の栄光をもたらした。一つのプレーモデルで研鑽を積むなか、天才が生まれたのだ。
育成として、一つの成功を収めたと言えるだろう。弛まぬ日々。育成に関わる者たちは「簡単ではない」ことを辛抱強くやっているものだが、祝うべき成果を収めた。
しかしながら、開発した商品のように一つの型にはめて生産する、なんてことはサッカーではできない。
その後、成功体験を得たラ・マシアは、「次のメッシ」を生み出すべく、さらに張り切った。メッシに似た選手は何人も輩出した。ジョバニ・ドス・サントス、イサック・クエンカ、クリスティアン・テージョ、ジェラール・デウロフェウなど数多くの選手がトップデビューを果たしているが、定着させることはできなかった。
多くの“人柱を立てながら”も、結局はメッシという1人のスーパースターを生み出しただけ、とも言える。つまり、育成とはそれだけの犠牲を払い、向き合うべきものなのだろう。どれだけ精巧に作られた育成メソッドで、たとえ指導者が優秀であっても、成功の保証など何一つない。
育成は、我慢強く選手と対峙するしかないのだ。
「ダイレクトならワールドクラス、2タッチなら凡庸な選手、3タッチ以上するなら、おばあさんで事足りる」
クライフはそう言って、10代だったジョゼップ・グアルディオラの技量を徹底的に高めた。ダイレクトという最も難しいプレーの使い手とすべく、周りを見極め、判断力を高め、持っている技術を最大限に使え、という教えだろう。その基本として、単純な「止める、蹴る」があった。そこにおける精度がなかったら、プレースピードは上がらない。下手な選手は、スピードを上げると同時に技術精度も極端に落ちてしまうのだ。