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羽生結弦、浅田真央ら見守った14年間 フィギュア日本代表ドクターの知られざる苦労

出番直前に選手から鼻血「もう次だ!って焦りました」

「多いのは捻挫と疲労骨折。最近は股関節を痛める選手もいます。着氷の衝撃やビールマンポジションで腰を痛める選手も多いですね」

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 煌びやかな世界の裏で、競技の過酷さを知った。レントゲンなど画像を見る限り、歩けないくらい痛いはずなのに大会に出ているスケーターも。「これでやってたの? すごく痛いだろうに」と目を丸くしたのは一度や二度じゃない。着氷で衝撃が加わる右足だけ、O脚のように内側に湾曲している選手もいる。

「フィギュアスケートに携わるようになって驚いたのは転び方ですね。捻りながら落ちるので、陸の上だったら膝の前十字靭帯を絶対に切ります。最初にスケート場で見た時、『あっ、やっちゃった!』と思いました。でも、スッと立って滑っていく。『あれ? なんで?』って。

 足が固定されて体が捻じれると、捻じれる箇所が膝しかなくなり、前十字靭帯が切れます。でも、フィギュアスケートは膝が捻じれる前に足が滑って固定されないんですよね。競技をよく知らず、膝のことをある程度知っている人が転ぶ瞬間を見たら、『あーっ!!』って飛んで駆け付けてしまうかもしれません」

 人生を費やしてリンクに立つ選手たち。土屋さんにも、ドクターとしてプレッシャーを抱える瞬間がある。「一番嫌なのは6分間練習です。とにかく無事に終わってほしい」。各組ごとに5、6人が一斉に滑り、ジャンプやスピンなどを確認。数分後には本番を迎えるため、衝突など何か起きれば一大事だ。

「終わると『フーっ』ってほっとします。過去には出番直前に鼻血を出した選手がいました。鼻に物を詰めて演技するわけにはいかないし、『もう次だ!』って焦りましたね。ドクターは一人ですから、私がなんとかしないといけません」

 日本代表のチームドクターを務めて14年。選手たちから感謝の寄せ書きをもらった時、親心に沁みた。裏方だから知る姿があり、ドクター冥利に尽きる瞬間がある。多くの苦労があった中、選手への願いはたった一つだ。

「医者としては、無事に終わってくれればそれで十分。ノーミスじゃなくていいから、とにかく最後まで滑ってくれればいいと思います。もちろん勝てば嬉しいですけど、成績は関係ないですね。怪我なく出て、怪我なく終わって、みんな無事に帰ってくる。それだけで満足です。こちらが演技を見て楽しかったとか、そういうものはオマケですね」

 スケーターをリンクに立たせる。白衣姿は責任感に満ちていた。

【私がフィギュアスケートを愛する理由】

「技だけじゃなく、美しさ、優雅さも必要な上にやっぱり力強さも必要。そういうものが組み合わさった姿を見ていると楽しいですね。転んだ時は相当痛いんだろうなと思いますが、みんなすぐに立ち上がる。痛みに強いんですかね。自分のできることを発揮して、本人が満足すれば私はいいと思います。結果は後からついてくる。『本番では怪我なく滑り終えてください』と。そこですね、やっぱり」(日本代表チームドクター・土屋明弘さん)

 ※「THE ANSWER」では北京五輪期間中、取材に協力いただいた皆さんに「私がフィギュアスケートを愛する理由」を聞き、発信しています。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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