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羽生結弦、一人でリンクの空気を変える風格 全日本公式練習で目撃した本田武史の証言

羽生は「リンクの外から空気を変えられる」と本田氏は語った【写真:窪田亮】
羽生は「リンクの外から空気を変えられる」と本田氏は語った【写真:窪田亮】

羽生は「リンクの外から空気を変えられる」

 そして大会で大きな注目を集めたのが、4回転アクセルへの挑戦だった。

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「羽生選手は初日の公式練習は参加せず、次の日から参加し、4回転アクセルに挑戦しました。軸の作り方、高さ、速さ、これなら跳べるんじゃないかという目安ができていました。その後の公式練習では抜けることも少なくありませんでしたが、本番が近づくにつれアドレナリンが出たり、回ろう回ろうとしてタイミングがずれている気がしました」

 いざ試合では、回転不足、両足着氷となった。

「転倒しなかったのがすごく大事だと思います。それだけまとまりのあるジャンプであるということだからです。何よりも、4回転アクセルは試合で挑戦するジャンプではないと思っていたので、メンタルの強さや懸ける思いが伝わってきました」

 全日本選手権で印象的だったのは、「リンクの外の姿」だった。

「木曜日、最初に公式練習に来た時のことです。彼がリンクの近くに来た途端、一瞬で空気が変わりました。それまでは他の選手たちは仲良く話をしたりしていたのですが、羽生選手が来ると雰囲気が締まった。存在感であったり、チャンピオンの風格を感じました。僕も(アレクセイ・)ヤグディンや(エフゲニー・)プルシェンコの威圧感や存在感を経験していますが、それと同じものを持っています。宇野昌磨選手も演技の時にぐっと入る力を持っているけれど、リンクの外から空気を変えられるのは、それだけ特別な存在であるということです」

 フリーの『天と地と』の曲かけ練習でも印象的な光景があった。

「宇野選手、鍵山優真選手は羽生選手が滑っていても自分のペースでいましたが、ほかの選手は羽生選手を見ていましたね。なかなか一緒に滑る機会がないと、どうしても見てしまうし、4回転アクセルへの関心もあったからでしょうね」

 本田が過去の五輪2大会に比べて、最も良い状態だと評価した羽生は、北京大会で3連覇がかかる。その最大のライバルとなるのが、ネイサン・チェン(米国)だ。

「2人ともまったく違うタイプのスケーターですね。ネイサンの全米選手権を観ましたが、ショートプログラムの後半に4回転ルッツ-トリプルトウループを入れています。高い点数を出せます。前半も2つで40点近くになるジャンプがありますし、安定した演技ができれば115点くらい出てくると予想はできます。フリーは4回転フリップの転倒があったり、まさかのコレオの転倒はありましたが、ジャンプ自体は悪くなかったですね。問題ないと思います。ほかの4回転ジャンプもミスする気配はありません」

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本田武史


1981年3月23日生まれ、福島県出身。14歳で全日本選手権初優勝を果たすと、98年長野五輪に16歳で初出場。2002年ソルトレークシティ五輪にも出場し、4位入賞を果たした。世界選手権で銅メダルを2度獲得したほか、日本人選手として初めて競技会で4回転ジャンプを3回成功させる偉業を成し遂げるなど、日本男子フィギュア隆盛の礎を築いた。現在はプロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、テレビ解説者、そして指導者として後進の育成に力を注いでいる。

松原 孝臣

1967年生まれ。早稲田大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後スポーツ総合誌「Number」の編集に10年携わり、再びフリーとなってノンフィクションなど幅広い分野で執筆している。スポーツでは主に五輪競技を中心に追い、夏季は2004年アテネ大会以降、冬季は2002年ソルトレークシティ大会から現地で取材。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)、『フライングガールズ―高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦―』(文藝春秋)、『メダリストに学ぶ前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

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