最強プロボクサー・井上尚弥の美学 KO目前のリング上ですら意識していた「ファン目線」
「あぁ、止められちゃったな」、決着の瞬間によぎったこと
リングでは豊富な引き出しを見せつけた。一方的な展開に観客から「もう遊んでる」の声が漏れるほど。4回には左アッパー3連発から左ボディー。あえて相手に打たせる場面もあれば、ノーガードで誘うシーンも。7回にはサウスポーにスイッチ。ジャブ一つとっても、ガードの隙間を狙うもの、拳を立ててダメージを与えにいくもの、ポンポンポンと軽く打って揺さぶりをかけるものなど何種類も駆使した。
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決着した8回。アッパー2発から左、右のフックを浴びせると、最後は左ショートで吹っ飛ばし、最初のダウンを奪った。王者の表情は何一つ変わらない。再開直後に左フックが挑戦者の顎に被弾。ヨレヨレになったところ、すかさずレフェリーがストップをかけた。
「あぁ、止められちゃったな」。相手が戦意喪失し、会場が盛り上がる一方、少し視線を落とした井上は不完全燃焼の様子。「やっぱり勝ち方にこだわりたかった」。ファンに求められるのは相手が豪快にぶっ倒れるシーン。それは本人が最も理解している。
結果的に8回を要したが、パンチより重い足技もあるムエタイ経験者のタフさが光った。それだけ我慢強かったからこそ、井上が持つ多くの技術を見ることができた。「時には期待を超えない勝ち方をすることを覚えておいてください」と自虐的に笑ったが、玄人ファンであればあるほど楽しめる内容だったはずだ。
来春には他団体王者との統一戦を計画中。今後は自分が望む試合をしていくのか、ファンが望む試合をしたいのか。試合翌日の一夜明け会見で飛んだ質問。井上は一笑に付した。
「結局はどちらかがあれば、どちらもなんですよ。自分が望む試合であればファンの望む試合だし、ファンが望む試合が決まったならば自分が絶対に納得する試合になる」
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)