「気性の荒い大久保嘉人」を20年演じていた プロ生活での“理解されない”苦悩を告白
大久保が演じていた熱さ「常に身構えていました」
奥さんは文句の一つも言いたくなったかもしれないが、それを飲み込んで献身的にサポートした。そのおかげで、大久保はサッカーに集中することができ、結果を出すことができた。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
「俺の見る目があったということでしょ」
大久保は幸せそうな表情を浮かべてそう言うが、そう思わせている奥さんに懐の深さと余裕を感じる。最大の感謝はしているそうだが、その気持ちをこれまで照れもあったのだろうが、素直に伝えることはしてこなかった。
「記念日のプレゼントはあるけど、サッカーや移籍で大変な思いをさせたことへの感謝のプレゼントやありがとうとか言ったことがない。でも、引退したら強がらないで生きていけるし、“気性の荒い大久保嘉人”をもう見せる必要もないので、嫁にも素直に言えることが増えるかなと思う」
大久保の何気なく言ったことに、思わずハッとした。
気性の荒い大久保嘉人を見せる必要がない――。ピッチ上での熱く、激しく相手や味方とぶつかり合う姿、そして厳しい言葉を残してきた姿は、大久保嘉人を演じていたということなのだろうか。
「そうですね。本当の自分を見せるのが恥ずかしいんですよ。昔からサッカーをしている時はスイッチが入って、ガツガツ行っていたし、そういう自分しか見せてきていない。だから、サッカー選手でいる時は、常に身構えていました。でも、もうそういうのも必要なくなるので、楽になるなって思いますね」
20年間、演じてきた大久保嘉人からの卒業――。それが、大久保にとって、一番うれしいことかもしれない。
(佐藤 俊 / Shun Sato)