福士加代子の「ずーっと勝ちてぇ」という本能 ドベでも5000人を惹きつけた39歳の魔力
何が福士の足を動かすのか「一丁前にそこだけは変わらない」
39歳。酷使してきた体が簡単に言うことを聞いてくれるはずがない。「今回はなんにも練習してません。一か八かでやっていました」。一時は「痛みがあるし、精神的にダメだったのもあるし、とにかく何もできない」という状態まで落ちた。
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「なんかね、走りがへたくそになったの。わかります? 前の自分はよかったのにっていう葛藤があって。そこで自分と闘って、精神的に自分で自分を追い込んだ」
明るさの奥に、どうにも抗えない様子を垣間見せた。
笑顔を絶やさずにいた中、唯一眉間にしわを寄せた質問があった。「これからの目標、モチベーションは?」。低い声で返す。「なんか勝負には負けたんですけど、自分にはもう勝ったかなっていう感じがある。まあどっちでもいいかな。やりたくなったらやるかなぁ」。マラソン、トラックと複数種目で世界と戦い「やり残したことはない」とまで言った。
直後、マイクに乗るかどうかギリギリの距離で、隣に立つスタッフに漏らした。「私、レースなめてんな。日本選手権なんだけどな、あははははははっ。やっべーな」。日本一を決める舞台は「やりたくなったらやる」くらいの覚悟では立てないと承知しているのだろう。
じゃあ、何が福士の足を動かすのか。体と心に鞭を打ち、1万メートルを走り切った裏にはランナーの本能があった。
「1等賞を獲りたい、勝負しようという気持ちには変わりはなかったですね。練習していないくせに一丁前にそこだけは変わらない。だから、ずっと怖いと思っていて。勝ちたいと思っていないと、怖いって思わないじゃないですか。だから、ずーっと勝ちてぇんだなって思って。一丁前にね(笑)。そういう気持ちは常に変わらなかった」
39歳になっても「勝ちてぇ」という本能を全身で表現して走った。速い、強い、面白い。素直に弱さもさらけ出す。そして諦めない。見る者はそんなランナー人生を知っている。人を惹きつける魔力の正体だ。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)