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拳四朗VS矢吹に見るボクシングと“バッティング” 絶妙な距離感を狂わせた要因とは

拳四朗の絶妙な距離感を狂わせた矢吹の覚悟

 今回の試合では、ヒッティングとしてのカットと判断されたため、途中で試合が止まると拳四朗のTKO負けとなる。そのため、10ラウンドに勝負をかけたが、打ち合いではパンチ力のある矢吹が強い。普段の拳四朗であれば、この距離での打ち合いは選択しなかった。

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 距離感が良い普段の拳四朗だったら、バッティングももらわなかっただろう。前に出ざるをえなくなったのは、ポイントをリードされていたからだ。

 試合後に矢吹に話を聞くことができたが、「頭が当たったのは分からなかった。飛び込まないと当たらないし、そこにいるとは思わなかった」と話していた。

 私は両者を取材したが、今回の試合は2人の覚悟の違いがあったように思う。8度の防衛を果たしてきた王者の拳四朗は、これまでの世界戦の経験から少なからず油断はあった。それに対して矢吹はこの一戦に人生を懸けており、拳四朗の動きを分析してプランを立てて戦略的に戦った。

 世界戦は選手にとって特別な舞台だ。その状況下では想定外のことも起こる。今回の試合では、矢吹の覚悟が拳四朗の絶妙な距離感を狂わせ、想定外の結果に繋がった。

 今後については、まだ正式には何も決まっていない。通常であれば矢吹は選択試合を行うことになる。しかし今回、拳四朗陣営の抗議が認められWBCからの再戦指令が出れば、ダイレクトリマッチもあり得る。矢吹は「条件次第で別に全然やってもいいかなということはあります。でも勝負は1回、負けたからもう1回やろうということはあまりないと思う」と話していた。

 進退を保留している拳四朗だが、試合から2か月近くが経ち、そろそろ発表もあるだろう。これまで8度の防衛を果たした王者が、ここで終わってしまうのは惜しい。拳四朗次第になるが、本人が望めば両者の再戦は必然だ。

 王者として戦うのとチャレンジャーとして戦うのでは大きく変わってくるため、もう一度戦えばまた違った展開になるだろう。

 試合前には拳四朗のコロナ感染で延期になる事態もあった。そしてバッティング騒動により、王者となった矢吹に批判も集まっている。皆が納得できるよう完全決着が見たい。

(木村 悠 / Yu Kimura)

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木村 悠

1983年生まれ。大学卒業後の2006年にプロデビューし、商社に勤めながら戦う異色の「商社マンボクサー」として注目を集める。2014年に日本ライトフライ級王座を獲得すると、2015年11月には世界初挑戦で第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオンとなった。2016年の現役引退後は、株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動、社員研修、ダイエット事業など多方面で活躍。2019年から『オンラインジム』をオープンすると、2021年7月には初の著書『ザ・ラストダイエット』(集英社)を上梓した。

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