一流サッカー選手と「遊び心」 元フランス代表監督が実験、指導者が理解すべき点とは
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。2回目となる今回は、かつてフランス代表を率いたローラン・ブラン監督の興味深い実験を例に、トップ選手が備える“遊び心”に迫る。
連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:ブラン監督がフランス代表で実施した実験
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。2回目となる今回は、かつてフランス代表を率いたローラン・ブラン監督の興味深い実験を例に、トップ選手が備える“遊び心”に迫る。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
サッカーは、アンビバレントなスポーツである。例えば、サッカー監督は「確固たる信念を貫くべきだ」と言われる一方、「決して頑固にならず、柔軟でなければならない」とも説かれる。相反する考え方によって成立しているのだ。
結局、その場に応じて最適解を示すしかない。正解はどのようにでも導き出される。答えは表裏一体だ。
選手に問うべきモラルに関しても、例に漏れない。
例えば、ステレオタイプのサッカー選手としての適性はあるだろう。挨拶ができる、人の話を聞ける、約束やルールを守れるなど一般的な真面目さも、それらの一つかもしれない。秩序の中で、しっかりときちんと暮らせるか。真面目さや勤勉さは集団生活において亀裂を倦まず、協調性に通じるものだからだ。
しかしながら、品行方正な選手だけで勝てるのか。あるいは従順で決まりを守る選手が、必ずトッププロで活躍しているのか――そこは検証の余地があるだろう。
ローラン・ブラン監督が選手に対し、ある実験を行ったことがあった。ブランはフランス代表センターバックとしてワールドカップ、EUROで優勝し、バルセロナ、マルセイユ、マンチェスター・ユナイテッドなどでも活躍した。監督としてもボルドー、パリ・サンジェルマンで多くのタイトルを獲って、EURO2012でフランス代表も率いている。
その実験でブランはミーティングと称し、「12時から13時の好きな時間に集合」と選手たちに伝えた。トレーニングと伝えなかったのは、それだと体のケアで事前に来てしまう選手がいるからだった。選手の行動パターンを検証するものだったが、結果、ほとんどの選手が13時、5分前にどかどかと部屋へ入ってきたという。余裕をもって、ミーティングの準備をする選手はほとんどいなかった。ギリギリに滑り込んだ選手は主力で、間に合わなかった選手は定位置をつかむ力がないのは、興味深い検証結果だった。